Jewel box(hyde)

それから治った体が欲しがる、また肉。

だけど当分お肉はいらない。

hydeさんはお肉はカニは
まだお腹が苦しい。

何度かLINEでやりとりはした。

《カニ食べに行こうか》

〈別の悪魔に犯されているので無理です〉

《肉食いに行く?》

〈牛ばかりじゃ私は豚になりますね〉

《好きだ》

〈ワインがですか?〉

反らしているのは確か。

嫌いではない。

癒えない傷が邪魔をする。

それは突然やってくる。

いつものように仕事の帰り道。

見たことがある人が橋の上にいる。

見て見ぬふりをしながら通りすぎる。

腕を掴まれる。

『本気なんやけどな』

「不安なんです」

『約束する』

「裏切らないって?」

『絶対』

それなら
期待してもいいのかな。

それとも・・・
やっぱり信用出来ないかな。

答えがすぐに出せなくて言葉が詰まる。

「でも・・・」

hydeさんと関係したら
また彼と会わなくちゃならない時もある。

今度はhydeさんとと知ってる人から
そう思われることもあって
また傷付くかもしれない。

『あいつ結婚してへん』

はっ?
何を言っているのか分からない。

『妊娠したって相手が嘘ついてて』

今さら何を言い出すのかと思う。

妊娠してなかったのに
思い込みで私と別れてしまったから
ヨリを戻したいと言ってきた彼に
hydeさんが私より先に断ったと。

「hydeさんはズルい」

私なしで勝手に話が進んでいた。

『せやな
だけど俺ももう手放す気はないよ。
やっと捕まえた天使、離すわけないやん』

ずっと繋いでいる手が暖かくて気持ちいい。

私はされるがままなのに
ぎゅっとしてくれているのはhydeさん。

彼と別れて引っ越しをした。

連絡を絶ってから一年
hydeさんに言われた。

『あの頃いつもあいつと飯食ってたの、
河南ちゃんに会いたかったから』

「え?」

『叶わないって分かってても
河南ちゃんが好きだった』

もう何度hydeさんから気持ちを聞いただろう。

結婚していなかったなんて
無責任だと思っていたことは
ただの思い込みだった。

それに対して動揺が溢れそうで
全てを知った上で
答えを出さなくてはならないのに
決心出来ない自分がいる。

『お願いやから河南
もうあいつの所には戻らんとって』

戻るつもりはない。

だけど動揺がうるさく体を駆け巡る。
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