Jewel box(hyde)

そして今日もひとり好きな物を前に
お一人様で美味しい物とお酒を楽しむ。

『河南!』

ほろ酔いの帰り道に名前を呼ばれ
驚いたまま振り返る。

目の前に立つのは
宝石箱から出て来てしまった
価値の少ない石のようなあの人。

そしてその先にはダイヤモンドのような
hydeさんの姿。

彼に何かを言われているも
それは上の空で私の視線の先には
hydeさんがいた。

『悪かった』
「もう・・・あなたとは、関わらない」

一息つづ吐いた言葉で
あなたを傷付けたかもしれない。

それでもお互い様だと分かってほしい。

もう疲れたよ。

振り向かずに背を向けて歩き出す。

どうせ最後だったんだし
もう少し優しくしてあげればよかったかな。

どっちでもいいか
もう会わないし。

軽くため息をつくと
携帯の着信がカバンの中で震えている。

見ればそれはさっき視線の先にいた
彼ではなくてhydeさんから。

酔った勢いなのか
一言もう関わらないと言おうとして
通話を押した。

『いまどこ?』

「橋の上ですけど」

いつもの帰り道。

大きな夜景のキレイな橋を渡れば自宅はすぐ。

足を止めて夜景に目を移す。

『あいつに戻って来てほしいって
伝えてくれって言われたけど』

「またその話ですか?」

hydeさんが言い切らないうちに
会話を被せる。

『聞けって!』

少し口調が荒くなるhydeさんの声が
電話ではなくて耳元で聞こえた。

同時に気付くとhydeさんの腕の中
hydeさんの胸で鼓動を感じる。

『その話は俺が先に断っておいたから』

話の展開が想像していたのと違うことに
戸惑う。

心地よい温かさ。

気持ちが緩和される。

ダメ
流されちゃダメだ。

「どうしてですか?」

『何が?』

「どうして私に関わるんですか?」

『理由がなくちゃダメ?』

終わらない会話。

「ダメ・・・です」

そっとhydeさんから離れて言った。

視線を反らしたまま
hydeさんの表情すら見えないまま
そのまま一礼をして背を向け帰宅した。

まだドキドキしている。

hydeさんの体温が
耳元の声が
至近距離の顔が頭から離れない。
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