Jewel box(hyde)

だけど子供も産まれたはがりで離婚して
親となった彼の非情さに呆れて
私はもうどうこうするつもりはない。

そう勝手に思っていた。

だけど何でだろう
急に味がしなくなった。

「ごちそうさまでした」

両手を合わせ食材や調理師や全てに感謝する。

「今日はその為ですよね。
離婚したから戻ってくるように言ってくれって
頼まれたんですか?」

今まで封印されていた冷血な私が顔を出す。

「hydeさんはあの人の味方なんですね」

寂しくなってショックで
なにも言わないhydeさんに腹が立った。

売れたばかりで貯金もない彼と私に
いつも食事をごちそうしてくれて
彼に兄貴と言われて笑顔だったhydeさん。

彼の浮気を知った時は私に背を向けて
彼を怒ってくれたのに。

やっぱり彼の味方なのだと思うと落胆する。

あの時は泣かなかったのに
どうしてだろう
今は溢れる涙が止まらない。

「ごちそうさまでした」

hydeさんに頭を下げると
涙を拭くのも忘れ
鞄を持って部屋を出ようとしたのを
引き止められた。

今さら何であいつのせいで
こんなに傷つくのだろう。

疫病神。

やっぱり関わらない方がよかった。

『ごめん』

涙を抜うのはhydeさん。

『河南ちゃんに会ったのを
あいつに言ったのは確かで
あいつに言われたのも確か。
だけどそれだけで今日、誘ったわけちゃうよ』

もうhydeさんにも会わない
そう決めようとしたのに。

『また誘うから
次は何を食べに行くか考えておいて』

そう言われてhydeさんが何を考えているのか
分からなくなった。

それ以来hydeさんとは連絡を取っていない。

《元気してる?》
《何を食べるか考えた?》
《また連絡するから》
LINEの新着音が鳴るけれど
既読スルーのまま
私から返事をすることはない。

hydeさんが嫌いとかじゃなくて
hydeさんと会えばまたあいつの話題になって
居心地悪くなるのが嫌だ。

結局一年経った今も引きずっているのかな。

過去の思い出は
嫌なことは燃やして灰にして
キレイな物だけ箱に詰めておきたいのが本音。

hydeさんも宝石箱行きでいい。

もう傷付きたくない。

意識的に
あの店の前を通らないようにしていた。

何かの拍子にhydeさんにご馳走してもらった
A5のお肉やカニを思い出す。

hydeさんの笑顔を思い出す。

キレイな思い出のまま・・・

やがてhydeさんからの連絡も途絶えた。

これでいい。

私はただの一般人であって
もうhydeさんともあいつとも関わりのない
ただの人。

寂しさを覚えるも箱入りにもならない。
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