Jewel box(hyde)

それからは会うこともなく
連絡をとることもなく
今までのようなひとりの時間が過ぎる。

夢だったのかな。

最高級A5のお肉をごちそうしてくれた神様。

そう思うことにした。

そしてA5のお肉に潰される夢も
どこかへ消えた。

いつものように仕事の帰り道。

いつものようにお店を物色していると
鳴る携帯電話。

『ごはん行かへん?』

電話の向こうを聞くその声に
ときめいたのは確か。

だけどhydeさんに会いたい自分と
もうミュージシャンとは関わりたくないと
思っている自分とが格闘している。

hydeさんと会ったところで
どうこうなるわけがないと自意識過剰を捨て
今日もまたhydeさんと食事をしようと決めた。

指定された店に行くと
それはまた不適切と言われるんじゃないかと
ビビるような外観。

これは一歩を踏み出すのに
勇気と時間がかかりそう。

それを後からクスッと笑う人物がいた。

『行こう』

自然に手を握られ
まるで恋人同士のスタイルで入店すると
何も言われず席に案内された。

今日はカニですか。

食べることが大好きな私はカニにも目がない。

『河南ちゃん、カニ好きだったよね?』

「はいっ!」

目の前のhydeさんよりも今はカニの方が
私を虜にしている。

紅く輝く甲羅に張りのある身。

早く食べたい!

ご丁寧に殻を取られた身が私を誘う。

「いただきます」

しっかり両手を合わせカニを見つめる。

いざ!

上からカニの身が私を見下ろす。

照明の光りに反射する身は白く輝き
私の口に取り込まれるのを待っている。

甘くとろける身は口の中を駆け巡り
そしてツルンと喉を通り
全身にその存在を植え付ける。

たまらない!

『あいつ河南ちゃんに会いたいって』

コースを食べ終わるころ
食事中はあまり話さなかったhydeさんが言う。

「私は会うつもりもないし、
よりを戻すつもりもないです」

動揺はあった。

私を切り捨てたくせに会いたいなんて
そっか今日はその話の為に呼ばれたのか。

まいっか
自分では食べられない
美味しいものにありつけたから。
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