twinkle twinkle(ken)

あれは高3の夏だった。

出会ったのはラルクのライブ会場。

運よく最前列のチケットを手にした時には
神様からのプレゼントだと思った。

待ちに待った当日までは
嬉し過ぎて
緊張し過ぎて
最前列でメンバーの全員が見られるとあってか
眠ることすら出来なかった。

会場の最前列は
手を伸ばせばメンバーに触れられる距離に
始まる前から想像だけで
逆上せてしまう。

バイトして貯めたお金で
自分の手で
こんなチャンスをものにしたと思うと
明日死ぬんじゃないかと
生涯最後に思える。

考えてるうちにライブが始まり
hydeさんの歌声
てっちゃんの低音
ユッキーのリズム
Kenちゃんのうなりが
体中を駆け巡る。

ライブも終盤になり
Driver'sHighで
Kenちゃんが目の前に来る。

ファンサービスに
前のめりになったKenちゃんがバランスを崩して
私の方に倒れ込んで来た。

慌てて両手を伸ばして
Kenちゃんを支える。

何とか難を逃れて
押し戻したKenちゃんはステージに戻った。

『大丈夫?』

ギターを弾きながらも
私を気遣ってくれたKenちゃん。

「大丈夫です!」

聞こえるように大きな声で
笑顔を見せながら言ったのに
Kenちゃんの顔が曇る。

Kenちゃんの顔に私はハテナを飛ばすことしか出来ない。

そのままKenちゃんはステージ脇に反れた。

すると私は訳が分からないままスタッフさんに連れられて
分からないまま
バックヤードにいた。

今までいた会場の熱が
一瞬で冷める。

何?

消毒するから待ってね
そう女性の声が聞こえて
慌ただしくなる私の周辺。

女性の手が私の頬を触る。

消毒薬の匂いが鼻をつく。

「いたっ!」

思わず声を上げた。

違う女性スタッフさんから鏡を見せられると
私の頬が切れていた。

消毒薬が染みてチリチリしている。

顔に傷なんて嫌・・・

脳裏をかすむ本音。

もし傷痕が残ったらお嫁に行けないかもしれない。

私まだキスもしたことないのに。

じんわりと滲む涙。

鏡を見ながら呆然としてしまっている。

病院へ行きましょうと
スタッフさんに言われたけど
ひきつる笑顔で大丈夫ですからと椅子を立った。

どこからともなく現れたKenちゃん。

そっかライブ終わったんだな。

アンコール見たかったな。

『自分、名前は?』

憧れのKenちゃんに話かけられているのに
私はどこか遠い視線をしていると自分でも感じる。

「河南・・・です」

ぼそりと言ったこと
あまり覚えていない。

『傷痕残らへんかな』

Kenちゃんが頬を覗き込む。

大丈夫です。
ありがとうございました。

学生の私はそう言うのが精一杯で
この空気から早く出たかった。

傷痕はお化粧すればいいのだと楽観的に考えようと思ったら
少し気持ちに余裕が出来て
一通りお礼をして帰ることにした。

送っていくからと言い出すKenちゃんを止めたのは
リーダーのてっちゃん。

まだ出待ちをしているファンがいるからと。

だったらと連絡先を教えてと言われて
携帯番号を教えて帰宅した。
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