propose once again(hyde)

携帯画面には秀人の文字。

「もしもし」

『悪いんやけど・・・』

秀人の忘れ物を届けるように言われた。

街はクリスマス一色の12月24日。

冬の寒さが肌ばかりか
胸にまで凍みる。

秀人が利用するホテルは
いつ来ても敷居が高く感じ
部屋に行くまでに緊張する。

インターホンを押すと
すぐに向こうから鍵が空いた。

『入り』

上半身裸の姿に
胸が痛くなる。

両腕のタトゥーが増えている。

「増えたのね」

秀人から視線を外し
自分のコートを脱ぎながら
そう語りかけた。

『何やと思う?』

予期せぬ質問に息を飲む。

とげと書いていばらと読む
それは
たくましい秀人の腕には
似合っていた。

ギターを鳴らすたび
マイクを握りしめるたびに
男らしい腕には
もう抱かれないんだと思ったら
急に虚しくなる。

「いばら似合ってるよ」

無理な笑顔。

やっぱり気持ちが辛くなる。

自宅ではないこんな場所で
二人きりには
まだ・・・
もう・・・
主婦でも母でもない
今の私には堪えることも出来なくて
女に戻ってしまいそうで
怖くなった。

「忙しいんでしょ?」

脱いだコートにもう一度
袖を通すことにした。
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