君のカメラは見たくない(yukihiro)

目の前のカメラマンは女。

だからか?

正面から写真を撮られるのは
恥ずかしいと言うか
正直、苦手だ。

カメラ目線になるのも
彼女を見るのも嫌だ。

そんな気持ちを察したのか
彼女が言い始めた。

『yukihiroさんの髪、綺麗ですよね。
横向きになって、少し下を見てもらえますか?』

『靴、見てて貰って構いません』

『次、天井見てみて下さい』

『手はポケットのままで大丈夫です』

次から次へと指示がくるも
全部、目線を外したものばかり。

今まではラルクの一番端で
密かに立っていれば良かった。

笑わなくても
ただカメラを見て立っていれば許された。

ユッキーだからって言われてそのまま。

だけどソロってそうじゃない。

俺ひとりだから。
俺を見せなくちゃならない。
俺を。

苦手だ。

『何か音楽かけますか?』

「いや」

だけど何故だろうか
彼女の声を聞いていると心地よくて
音楽もいらないと感じた。

そのままでいいですよ
無理に笑わなくても大丈夫です
そんな言葉が温かいと感じてしまった。

『靴だけ撮ります』
『手だけ撮ります』
『後ろ髪だけ撮ります』

言われたままにポーズを決めてるうちに
あぁ、仕事だったなと
少し残念な気持ちになったのは隠しておく。

『目だけ撮ってもいいですか?』

目の前の彼女のカメラ越しに目が合う。

ドキッとしてしまった。

カシャッ、ピピピ
機材の音だけが響く。

『チェックします』

俺だけの写真。

hydeくんも誰もいない
俺だけの写真が気になってパソコンを覗く。

好きかもしれない。

この写真。

一休みすると
小物を使った撮影が始まった。

俺、薔薇持たされてるけどね。

真っ赤だった薔薇が一輪一輪
彼女の指示で黒く塗り替えられていく。

花びらは一枚一枚バラバラにされて
撒かれていく。

残ったのは赤い花びら一枚。

最初は嫌だった今日が
今は嫌じゃない。

俺らしい仕上がりになっていると
確信している。

最終チェックが入ると
全ての人が息を飲むような俺が
パソコンの中にいた。

彼女、黒系の写真が得意みたいですよ。

マネージャーから聞いた話だと
黒を基調としたバント系のアー写が多いらしい。

通りで会ったことないはずだ。

ラルクは華やかだしなと納得する。

機材の撤収作業をしている彼女の荷物の中に
さっきまで気づかなかった雑誌の山。

付箋が貼られている場所を開くと
ラルクのページだった。

線が引いてある。

写真カメラは好きじゃない
そう俺が発言したインタビュー記事だった。

他にもカメラ目線が苦手だと言った場所だったり
誰のアー写が好きなのかとか
結構な数の雑誌の山。

付箋にはそれぞれ名前が書いてある。

あっ、こいつ知ってる。
こいつのカメラマンも彼女…か。

なんだ、このモヤモヤ。
苛立つ。

『今日はありがとうございました』

ふいに話しかけられて
間抜けな顔を見せてしまった。

それと同時に彼女の顔をハッキリと見た。

カメラ越しじゃない彼女のナチュラルな素顔。

『嫌じゃなかったですか?私』

「いや…大丈夫だった」

良かったと笑顔になる彼女に惹かれた。

始まる前に貰っていた名刺の居所が気になる。

どこにやったっけ。
あ、スマホに挟んだっけな。

心の中で拳を握る。

『良かったです。
また会える日を楽しみにしてます』

そう言われたらまたを期待してしまう。

そして彼女に手を出されて
読んでた雑誌を回収された。

『これはダメです』

私のカンペなんでと笑顔で去って行った。
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