new world(yukihiro)


「こいつ俺の娘」

その言葉に河南は反論する。

見た目はそんなに変わらない女二人が会えば
どうなるかなんて想像はつく。



そう言う彼女の目には涙。

『嘘じゃないです』

河南は名刺を渡す。

受け取らないでじっと俺を睨むのは彼女。

「はぁ」

聞こえるため息をわざと吐いて
ボスンと音を立ててソファー座った。

河南は続けた。

自分の生い立ちを説明した。

さすが弁護士だな、毅然としている。

だけどそれを信じたか信じてないかは
もう見ただけで分かってしまった。

嘘をつくならもっとましな嘘をついてと
平打ちされたのは俺。

慌てて彼女に掴みかかる河南。

言ったことが信用出来ないなら
結婚はしないと言ったのは俺。

部屋には再び河南と俺の二人。

『バカだよね?』

氷で俺の頬を冷やしながら河南が言った。

「バカだよな」

天井を見上げる。

俺は河南とのことを真剣に向き合える女なら
結婚出来ると思った。

だけど彼女は違った。

河南を敵対していた。

だから無理だった。

これからも河南の誕生日は祝うつもりだ。

俺の誕生日も河南と一緒がいいと思ったから。

だから二年に一回じゃなくて
毎年二回会うことになるだろう。

あいつの命日にも二人で行くんだろ。

なあ娘よ。

それから俺の口癖が増えた。

娘がいるけどいい?

無理と言われる方が多くて
自分で笑ってしまうほど。

その度に河南にはバカだと笑われる。

先の悩みは今は気にならなくなった。

俺が長生きすればいいことであって
俺が90歳のじじいになれば
河南も70歳近いばばあだ。

二人で老人ホームにでも入るか。

そんなことを墓の前で言ったら
親子でホームかよって突っ込まれた気がした。

あいつに。

墓からありがとうと聞こえた気がして
思わずぞっと寒気がした。

帰ろ。

河南に電話する。

「今日、飯作って」

ーfinー
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