new world(yukihiro)

何も言わない河南がいる。

こいつはもう分かっている。

寄付したなんて嘘は言えない。

頭のいい河南だから
法律を調べれば分かるはずだ。

遺産は河南が相続している。

俺は特別代理人として名義を貸しただけ。

相手は母親なんだから苦悩もあるだろう。

いくら憎くても
河南を産んだ人には間違いない。

14年間育ててくれた人だ。

気持ちが揺れ動くのは当たり前だ。

だけど河南ははっきりと言った。

遺産は渡さないと。

それならばと俺が預かった。

母親は何度か河南に接触してきた。

高校に行くようになって
偶然にも河南を見かけるようになったとか。

学校帰りにいつも声をかけてくる。

産んでやったことありがたく思えが
母親の口癖だ。

その度に河南は歯を食いしばる。

遺産はないと告げたが
そんなことはないと引き下がらない。

それでも河南は帰宅ルートを変えるだけで
学校は休まなかった。

それも長く続かず疲労が溜まって行った。

俺が起きた昼過ぎ
河南が学校から帰って来た。

「早いな」

『早退、した』

そのまま河南は部屋へ入って行ったまま
出て来なかった。

しばらくして俺が入ると
河南にしては珍しく脱ぎっぱなしの制服と
カバンも床に無造作に落ちているかのよう。

それを拾い上げハンガーに掛けたのは俺。

カバンは椅子の上。

苦しそうな息づかいが聞こえる。

手のひらでおでこを触ると
かなりの熱を発していた。

「熱いな」

触る俺の腕を河南が掴む。

『移ったらダメだから・・・』

困った顔の河南。

「ガキが気にすんな」

怒ってなんかいない。

むしろ笑顔だ。

大人びた河南が急に子供に見えて安心感が出た。

嫌なことがあったからな。

熱が下がるまでは三日かかったが
熱は下がった。

だけど怠さが残る河南の体が
いつも通りに動くには更に時間が掛かり
ようやく学校に登校したのは一週間後。

その一週間の間
河南が学校に行かなかったことで
母親が学校を訪ねてきたと
担任だと言う先生から電話がかかってきた。

弁護士に依頼して警告書を渡してやった。

これ以上付きまとうなら
出るとこ出てやるよ。

そう思っていたがあっけなく終わった。
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