new world(yukihiro)

体育館へ行くと他の保護者同様に
席に案内され
一連の流れを説明された。

河南からは保護者は来ないと言われていたが
参加出来て良かったですねと
先生らしき人に言われた。

正直、俺に話しかけてきた人は
この中学校の何を担当してる先生なのかさえ
知らない。

そして彼女も俺のことは知らない。

先生なのか否かもまったく分からない。

式典が始まる。

自分の時の事も思い出せないのに
河南を探してそこに居る事に安堵する。

開式から始まって授与式が始まると
保護者も順番に立ち上がっていく。

前の列の保護者がいなくなると
俺まで緊張してきた。

数えきれない程のステージをこなしてきてるのに
それとは違う緊張に襲われる。

ドラムスティックもマイクもないことに
違和感を感じる。

いやいや、ここは堂々と。

ただ河南と顔を合わせて証書を受け取るだけだろ。

隣の保護者が立ち上がる。

いよいよか。

河南が証書を片手に歩いてくるのが見える。

短いようで長い距離。

俺を見つけて目を見開くほどに
驚いている河南がいる。

そして目の前。

『髪・・・』

その言葉にも笑みが出る。

「うん」

河南が言葉を変える。

『ありがとう。来てくれて』

「うん、おめでとう」

河南の幼い笑顔。

余所から見れば俺も人の親か。

証書を受け取り
俺はそのまま体育館を出た。

保護者とは言え
やはりばれる訳にはいかない。

まだ少し肌寒い3月の卒業式。

ひとつの区切りだ。

車の中で河南が終わるのを待った。

ぞろぞろと出てくる卒業生の顔は
大人に向けて輝いていた。

河南が出てくると
男女関係なく写真を撮ったり
普段なら見られない顔をしている。

笑顔で話してると思えば
涙しながら抱き合ったり
何だ、ちゃんといるじゃんか友達。

俺がお前のテリトリーに入らなくても
お前なら大丈夫だな。

卒業式の日
俺は少し寂しさを感じた。
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