new world(yukihiro)

嘘ではないが
半分、信用もしてなかった。

だけど河南は風呂とベッドメイキング
洗濯やキッチン回りを掃除して
1日一時間か二時間
きっちりと役割を果たしているようだ。

ご丁寧に可愛いノートに
タイムカードのように時間を記入して
その度に洗濯物がどうしたとか記入してある。

それを読んで真面目な一面に
口元がほころんだのは隠しておく。

ノートに返事を書くようになったのは
二週間くらい過ぎた頃から。

どうしても
クリーニングに出しておきたい服があったから。

##NAME1##はちゃんと見逃すことなくやっていた。

途絶えたのは更に一週間くらい過ぎた頃。

返事のないノートに舌打ちをして
ノートをゴミ箱に投げ入れた。

しかし翌日、ごみ箱のノートは綺麗に
テーブルに置いてあった。

昨日はごめんなさい。
体調が少し悪くて・・・と書いたメッセージを
消した跡がある。

それならちゃんと言えばいいのにと思いながら
河南が来たことが嬉しいと言うか・・・

こんな子供に嬉しいという単語を使うのは
どうかしてるかもしれない。

安心・・・
親心的な安心感というか、そんな気持ち。

久しぶりのオフ
昼過ぎまで寝ていた。

何もする気にならなくて
ゲームをしていた夕方。

ガチャリとドアの音に振り返る。

『いたんだ』

単語だけの会話。

河南は話もせずに黙々とベッドメイキングを始めた。

俺が何も言わなくても風呂やトイレ掃除をしている。

『掃除機かけるけど』

掃除機を片手に河南が指を指す。

ゲームを止めろってことかと分かると
俺はコントローラーをテーブルに置いて
ソファーに座る。

手慣れた様子であっという間に終わった。

『終わったから』

いつものノートに時間を書くと

『あのさ・・・』

河南は何か言いたそうに
言いづらそうにしている。

「何?」

ためらいながら河南は書類を出してきた。

『保護者の印鑑、必要なんだけど』

それは保護者を変更する為の書類と
進路希望の用紙だった。

『こっちは迷惑かけるから嫌ならいい』

そう言って河南が指すのは保護者変更届け。

『こっちは印鑑だけついてくれればいい』

そう言って指したのは進路希望の用紙。

進路希望に目を通すと小さな字で
第一希望には就職と書いてあった。

第二希望も第三希望も空欄。

沈黙が続く。

『やっぱりいい』

沈黙を破ったのは河南で
俺の手元から書類を奪って出て行った。
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