陽だまり(hyde)

《13》ー海と風ー

河南が旅立ってから
殺風景な部屋の寒さが凍みる。

聞こえない鈴の音と
テーブルに置きっぱなしの首輪

最後の河南の笑顔が焼き付いたまま。

連絡先は知っている。

けれど
さようならとありがとうを言った河南に
連絡するのは女々しすぎるなと止めた。

うちに迷い猫が来ていた何日間は
癒されていたなと
猫っ毛を触れなくなった右手が空いている。

1ヶ月もなかったその日々が
今は幻かのようだ。

今も目を閉じれば
鈴の音と河南猫の足音が聞こえて来る。

俺も陽だまりで丸くなろうかな。

青く澄んだ海を目の前にして
迷っている俺がいる。

河南の近況は知っている。

インスタグラムを始めたらしい。

連絡先を知っているから出て来るんだよな
知り合いですか?って。

個人アカウントでフォローしたら
フォローし返してくれた。

余裕が出来たんだろうと笑顔になる。

海風にあたりロサンゼルスの空気を吸う。

そろそろ会いに行けるかな。

砂浜の砂を踏んで俺も歩き出す。

レコーディングでよく来るその場所は
車の行き交う音が耳に残る。

普段から食べに来るそのレストランは
日本食の割烹料理。

きっと河南は知らない。

俺が常連だってこと。

そして河南は知らない。

俺の気持ちも今ここにいることも。

店に入り軽く食事をする。

様子を見るが河南の姿はなく
いる気配もない。

マスターに聞くと
河南はここにはいないと言われた。

諦めへんよ。

逃した猫に餌をやるまでは。
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