陽だまり(hyde)

《12》ー別れと笑顔ー

急いで決めたのは嫌になったわけじゃなくて
もう下を向いていても
どうにもならないと分かったから。

そしてhydeさんに
これ以上の迷惑をかけられないと。

拾ってもらったのに
甘えてるばかりじゃいられない。

だから
だから飼い主さんとお別れをすることに
決めたにゃん。

『ありがとうございました』

hydeさんの手で外して欲しくてお願いした。

首輪を外すhydeさんの手は冷たかった。

「どこ行くつもりなん?」

辞めた会社を通じての知人が噂を聞いて
ロサンゼルスの日本食レストランでの業務を
紹介してくれた。

何度か仕事で行ったこともあるし
傷ついた心を持って行くには丁度いい。

『最初で最後の飼い主はhydeさんだけにゃん』

自然に流れる涙を
さっきとは違う温かい手で拭ってくれた。

悔しくて悲しい涙じゃない。

離れたくないけど行くと決めた
ありがとうとさようならの涙。

「ずっといてもいいんやけどな、子猫ちゃん」

これ以上飼われたらhydeさんから
離れたくなくなっちゃう。

そうしたらもっと好きになっちゃう。

ここでブレーキを掛けなきゃいけない。

あなたがあのhydeだから。

自分からhydeさんの胸に飛び込んだ。

そしてhydeさんの香りを
目一杯吸い込んで飲み込んだ。

『さようなら』

最後は泣かない。

笑うの。

陽だまりみたいに。

空港を出るとロサンゼルスの気候に
気持ちが軽くなる。

暑くもない、寒くもない
まるで陽だまりみたいなぽかぽか陽気。

風の変わりによぎるのは
最後に吸い込んだあなたの香り。

恩返しはしなかった。

hydeさんは行ってらっしゃいと言ってくれた。

行ってきますと
ただいまがあるような気がして
また会えるんじゃないかって思った。
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