陽だまり(hyde)

《10》ー信頼と愛情ー

hydeさんが優しく包むように声をかけてくれる。

正直、ひとりじゃどうにも出来ない。

私が謝って許してもらえるなら
頭を下げる覚悟は出来ている。

だけど私はもう依存している。

飼い主にしても優しくしてくれ過ぎだ。

あなたが言えば
それが本当になると信じている私がいて
だから優しい言葉たちに甘えてしまっている。

hydeさんにスマホを渡してから
まだ私は部屋を出ることもなく
陽だまりに丸まる
本当の猫のような暮らしをしている。

甘えてひっついて
撫でられて甘えられて。

すると自宅の電話が鳴る。

私が来てから今まで鳴ったことのない電話。

出ることはしなかった。

なのに切れては鳴るを繰り返したそれを
放っておくのは忍びなく
恐る恐る受話器を取った。

「河南、俺」

誰でもない主からだ。

ほっと胸を撫で下ろす。

びっくりしたやろ?
そう言われて返す言葉もない。

笑いながらも真剣な声で
今から出てこないかと場所を伝えられる。

眼鏡をしないと見えない裸眼に
コンタクトを入れて
メイクをして髪を整える。

割りと時間はかからないで支度が出来る私が
着いたのは静かなバーだった。

顔を出すとhydeさんはいなくて
変わりにいたのはカウンターに座る彼だった。

『なんで?』

隣に座るのを躊躇する。

本当のことを話たいと連絡したら
男性が出てここを指定されたと。

私のスマホは今はhydeさんの手元にあるのだ。

男性イコールhydeさんなのは間違いない。

『本当のこと?』

そしてこの言葉から彼の話が始まった。

私と付き合い始めた頃
彼はまだ結婚していなかった。

私にプロポーズしてくれたタイミングで
仕事関係の人にお見合い話を持ち出されたと。

断ることが出来なくて
話はどんどん進んで行った。

そして私とも話は進んでしまい。

先に式をあげたのは彼女との方。

つまり彼女の方と入籍を済ませてしまったのだ。

そんなことを聞かされて
早く話してくれれば
式をキャンセル出来たはずなのに
私を傷つけたのは紛れもなく彼で
置き去りにされたのは私。

入籍してしまえば私とのことは
どうでも良かったの?

何も言葉が出なかった。

殴ってしまえば気が済むかもしれない。

だけど気力が起きなかった。

涙すら出なくて
でももう顔は見たくなくて
立ち上がった瞬間にhydeさんが現れた。

hydeさんは優しく私を抱き締めると
彼の隣に座った。

私はhydeさんの隣に座り直した。

「これ、どうするつもりなん?」

hydeさんは私のスマホを彼に見せた。

そして未だに鳴り止まないそれを全部
彼に隠すことなく伝えた。
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