陽だまり(hyde)

《8》ー謝罪と誓いー

hydeさんだったらどうする?

意地悪な質問だったかもしれない。

こんなこと実際に起こらないと分からないのに。

私を拾って飼ってくれているのに
何故か口から出た。

『ごめんなさい』

謝るしかない。

そしてあなたの膝にまた深く絡まる。

会いたくないと言うより
会って何を言えばいいのか分からない。

やきもきした気持ちを
思わずhydeさんにぶつけてしまった。

あなたは黙って髪を撫でてくれる。

心地いい体温が伝わる。

hydeさんから安心を貰って
今、目の前に彼がいる。

渡された封筒にはお札の束がひとつ入っていた。

都合をつけたと言うお金は
私が全額払った結婚式の代金を
少しでも弁済するつもりの束らしい。

それを受け取るか受け取らないか迷う。

ごめんと言われても
その言葉が聞きたかったわけじゃない。

どうしてちゃんと言ってくれなかったのか。

既婚者だって。

そしたら結婚式なんて予定しなかったのに。

そしたらちゃんと別れてあげたのに。

そもそも付き合っていなかったのに。

顔を見たら言いたいことも言えなくなった。

お互い下を見るばかり。

あの殴ってやろうって気持ちすらどこかへ消えた。

『もういいよ』

もういい、許すとか許せないとかじゃなくて
もういい、会いたいとも思わない。

もういい、出会ったことすら忘れたいとかじゃなくて
もういい、思い出くらいにはしてあげる。

もういい、もうこれ以上傷つきたくないし
もういい、もうこれでおしまい。

『お幸せに』

そう言って先に出て来てしまったのは私。

お札の束も受け取らなかった。

その束に後ろ髪を引かれながら
もう会わないと誓った。

それなのにその誓いが崩れて行くのを
私はまだ知らない。
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