陽だまり(hyde)

《6》ー優しさと陽だまりー

『本当にいいの?』

hydeさんが河南のペースで
仕事を探せばいいと言った。

その間はここに居ればいいとも言った。

急ぐ必要はないと。

居たいだけ居ればいいと。

hydeさんが着ける首輪は
縛るものじゃなくて
私にとってあたたかな癒しの道具になっていた。

ゆっくりでいいと言ってくれたことで
焦る気持ちも落ち着いてきた。

やらなくちゃいけないと
後処理ばかりを考えていた数日が嘘みたいで
まだ一日をがむしゃらに動くことが出来なくて
半分はただ無になる時間がある。

無気力な体を起こすことの指令が下りずに
ただ日を浴びていることもある。

寝癖がついたままの髪。

自分に降りかかった不運がまた
脳内を占領し始めて
何が起きたのか
整理が付かないこともある。

現実は分かっている。

分かっているけど記憶から消したいのか
ただの物語にしたいかのように
考えないようにしている自分がいる。

あれ程まき散らかした求人雑誌は
hydeさんの手で綺麗に山積みにされて
テーブルの隅に置かれた。

赤ペンはない。

hydeさんが帰るといつもの牛丼の袋。

私の並とhydeさんの牛皿。

「また、何も食べなかったん?」

夜中に食べる牛丼が
hydeさんと一緒だからかな
今は一番好き。

そしていつもみたいにhydeさんの膝に絡まる。

hydeさんが髪を触ると言う。

「お日様の匂いやな」

hydeさんの優しい言葉。

優しい手と優しい声。

それでも今も思い出す。

彼の笑顔や彼の仕草。

私が知っていたのは彼の何?

hydeさんの膝に顔を埋める。

まただ。

忘れようとすればする程
脳内が知った顔を思い出す。

怒りがあったはずなのに
寂しさと抜け落ちた感が溢れる。
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