陽だまり(hyde)

《5》ー赤ペンとしっぽー

夜もどっぷりと更けて
朝方と言った方がいいかもしれない時間。

玄関を開けると漏れる光に
仔猫がまだ起きていると疑う。

俺が作詞をする時よりも散らかったテーブル回り。

その真ん中にうつ伏せて寝てしまっている
仔猫の姿を見つける。

俺の足元に絡み付くのは
猫のしっぽじゃなくて
求人書類の数々。

その中の大きく赤丸が付いた紙を拾い上げる。

そこにはクラブの文字。

そして同じ欄の赤い線には寮の文字。

広げっぱなしの求人誌にはバツ印が並ぶ。

年齢制限や資格など
行く先々を邪魔する文字。

資格はあるけど年齢にひっかかり
年齢は大丈夫だけど
それに見合う資格がない。

社会も厳しいんやな。

だけど仔猫ちゃんがクラブとはな。

なんか嫌やな。

こいつの人生だから
俺がとやかく言う必要はない。

俺が観入すること自体間違っている。

だけどな
あの河南が俺の知らない后妃のようになるのはと
出会った夜のことを思い出す。

暗闇と純白と赤信号の色しか纏ってなかった河南が
色とりどりの蝶になる。

野良猫が血統書付きの猫になるのか・・・

たった数日間の生活が
俺を変えていく。

手元の紙を力任せに握りつぶした。

お前の飼い主は俺やろ。

昼に外した首輪を見つめる。

チャリンと鳴る鈴越しに河南が映る。

「風邪ひくやろ」

毎日のように同じような言葉をかけている。

まったく世話が焼ける。

首輪を着けながら起こすと
おかえりにゃん
と言いながら目を擦る姿は
何かを勘違いしそうなほど本物の猫のよう。

そしてただ思ったことを話す。

「ゆっくりでええよ」

ゆっくりやりたいことを探せばいい。

慌てて探す必要はない。

ゆっくり癒えながら
ゆっくりゆっくり歩んで行けばいい。
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