陽だまり(hyde)

《3》ー涙とワインー

泣きじゃくる鳴き声は
悲しくて俺も切なくてなるほどだった。

痛みや悔しさ
怒りや寂しさが全部混ざった気持ちを
吐き出すような。

俺が耐えきれなくて
ソファーから立ち上がった。

オーパスワンのコルク音が部屋に響く。

仔猫ちゃんは俺が戻るタイミングで泣き止む。

「今日は飲もう」

ティッシュとワイングラスを差し出す。

両方を受け取った河南猫が言う。

『これじゃ拭けない』

確かに。

見ればワイングラスと
ティッシュの箱を両手に持ったら
涙も拭けないと訴えている。

鼻水まで垂らして
真っ赤な目をして
眉毛も下がっている河南猫の顔を
わしわしと拭いてやる。

「世話が焼けるな」

『だって』

すする鼻も愛嬌で
また今日も結局俺は飼い猫の世話に追われている。

そして河南は飲みながら気付く。

『これ、高いやつじゃん!』

「今さらかよ!」

笑い声が響く部屋に心地よさを感じた。

そして猫の存在も当たり前のように
考えてる俺がいる。

しばらくぶりに深酒をした。

翌日、少し重い頭をシャワーを浴びて蹴散らす。

猫はにゃんっと平気な顔をして
俺を覗き込んだ。

「お前、素面なの?!」

素知らぬ顔で何が?ときょとんとされ
俺はテーブルの空き瓶と
仔猫の顔を交互に見た。

こいつ俺より飲んでたはずなのに。

でもまったりとした癒しの時間が
河南の笑い声と泣き声とと共に過ぎて
楽しかったと思い起こす。

河南が作ったサラダとオムレツを食べてから
お互いに家を出た昼過ぎ。

『待てって』

じゃあねと言う猫を引き留めた。

『今日、遅くなるから』

そう言って部屋の合鍵を渡す。

「hydeじゃん。
待てと言うなら外で待つけど?」

まただ。

こいつは変に気を使って
変に甘えてくる。

最初に出会った時は濡れたドレスだからと
車に乗らなかった。

今日も俺がhydeだから同棲してるとか
まずいだろうからって。

それなのに首輪を着けた途端に
にゃんにゃん言って本当の猫みたいに
なで声を出す。

『外はまずいだろ』

「そっか、そうだね」

週刊誌に張られるもんねと
いたずら笑いをする河南。

そして俺は河南の首に手をまわす。

『これもまずいだろ』

鈴の音が鳴る首輪を外す。

すると大人の女性に戻った顔に
ドキッとした。

「えー、ダメ?」

『ダメやろ』

大人の女性に戻ったかと思えば
また甘えた声。

じゃあと別れる。

俺の手には残った首輪。
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