陽だまり(hyde)

《2》ー私と彼ー

ウィンドウの
ウェディングドレスをきたマネキンの前で
ため息を吐く。

ドレスなんて今は見たくもない。

そしてまた
見たくない姿を行き交う人の中に見つける。

あいつ!

警察沙汰になってもいいと覚悟して
一発殴ってやろうと肩を掴んだのに
隣の女性が誰?と聞く。

見れば胸も私より大きくて
なのに巻いた髪がおしゃれで
女子力高い女性。

彼はと言うと
あ、えっと、その、会社の、と歯切れが悪い。

そりゃそうだ。

お前のせいで
仕事も貯金も住む場所もなくしたんだと
更に怒りが増すのに
会社の?
私はお前の会社の何なんだ!と
ぐっと拳を握る。

すると主人がお世話になっておりますと
力がなくなる言葉がかえってきた。

主人・・・

そこで初めて知る事実。

言葉にもならない言葉で
お世話になってますと返すのが精一杯だった。

彼が好きそうな声に姿に
今の私を重ねても
私は勝ち目すらない。

だけど
貯金は返してほしいのは切実な悩みである。

「詐欺やろ、それ」

hydeさんに話したら怒りの声が降り注いできた。

『いいにしようかな、私が馬鹿だったんだし』

ソファーにもたれるhydeさんの足元。

尻尾を絡ませるようにうなだれている私。

彼の本性を見抜くことが出来なかった私のせい。

知らぬ間に不倫をしてたってことかな。

彼が既婚者だったなんて
普通、気付くよね。

『見抜けなかった私のせいだよね』

うなだれる私の頭を
hydeさんが猫を撫でるように撫でる。

うまく隠された?
騙された?
私がしつこくて断れなかったとか?
最初からその気がなかったのは
確かなことで
私は二番にもなれなかった。

今さら一番も二番もいらないけど
逃げるならもっと前に逃げてくれれば良かったのに
何で結婚式当日なの。

怒りも涙ももうどこかへ行ってしまえばいいのに
今の私は泣くことしか出来ない。

怒りを振り払うことが出来ない。

hydeさんの膝の上で涙を堪える。

「泣いてもいいんよ」

優しく撫でられる頭に
じんわり届くhydeさんのぬくもり。

温かくて優しくて
泣くにはもったいないくらいで
だから私は自分の両膝を抱えて泣いた。
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