24時間キスしていいですか?(yukihiro)


-河南 side-

自然に涙が溢れて流れた。

『ごめん、河南、ごめん』

困り果てて謝り続けるyukihiroさんに
申し訳ないのと同時に
言われた言葉が頭の中でリピートされている。

人前に出るのが苦手で
足も手も震えて
息も出来なくなるのに
どうして私は歌手になったのだろう。

よくこの事務所に入れたと思う。

前職の接待で
たまたま歌った時に社長にスカウトされて
今までよく顔を出さないで
ここまでやってこれたと。

「私・・・やります」

それから幾度となくセッションを重ねて
曲も作った。

ユニットとして活動することが決まり
ソロとしてはしばらくないテレビ出演。

Mステ特番。

リハーサルを前にサポートメンバーが
事故に巻き込まれて
本番に間に合うか分からない状態に
なってしまった。

最悪リハなしかCD音源で歌えばいいだけ。

普段のスタジオで歌うより
特番のためアリーナサイズの
特設スタジオのこんな広いステージで
独りは心細いし
やっぱり緊張ばかりで楽屋に閉じ籠るばかり。

『河南?』

ノックの音も半ば上の空で
気づけば目の前に空海がいた。

「えっ?あっ!うん・・・何?」

目と目が合う。

『顔、真っ青だよ?大丈夫?』

空海の柔らかい手がおでこを触る。

『熱はないみたい』

震える手が大きくなる。

自分じゃ抑えきれなくて
それを空海に見られる。

すると空海はいつもの元気さじゃなくて
見たこともない優しさで私を包んだ。

『大丈夫だよ』

擦る背中が温かくて安心する。

『大丈夫』

空海の声が遠のくくらい
ずっと抱き締めてくれていた。

それにただ甘えていた。

体が離れた瞬間に寒さを感じる。

でも空海の柔らかな手が
今度は私の手を握る。

『もう治ったみたいだね』

いつもの笑顔につられて笑顔になる。

理由も分からないのに
癒してくれて感謝する。

「ありがとう」

あの子が見ているとは知らずに
そして楽屋を覗いているあの子を
yukihiroさんが見ていると知らずに。
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