24時間キスしていいですか?(yukihiro)


-河南 side-

お疲れ様ですと周囲の声も上の空で
右頬を押さえトボトボ歩く楽屋への廊下。

まだそこだけが熱い。

『おつかれ』

楽屋の前
見慣れたあいつが立っている。

今流行りのキラキラネームを
源氏名にしているこの男は空海(ブルー)。

さっきまで同じ番組に出ていた。

空海とはレコード会社が同じで
やはり顔馴染み。

いかにも優しそうなイケメン顔で
甘え上手な年下の空海は
ダンスグループとして活躍している。

だけど私は犬のような猫のような
飼いたくなる空海みたいな男性は苦手だ。

『さっきの見てたよ』

当たり前のように楽屋に入ってきては
人見知りで慣れないと話もしない私を
知ってか知らずか空海のおしゃべりが続く。

『河南、あいつに惚れたの?』

年下のくせに
前から私を馴れ馴れしく河南と呼ぶことに
ずっと疑問を感じてた。

許した覚えもないけど
拒否する気力もない。

しかもあいつに惚れた?って
yukihiroさんに?

yukihiroさんの笑顔は素敵だと思うけど・・・

さっきはあのyukihiroさん相手に
確かに胸がときめいた。

すると楽屋のドアがノックされた。

「はい」

返事をすれば顔を出したのはyukihiroさんで
空海と鉢合わせになってしまった。

『今いいかな?』
「はい、大丈夫です」

私は空海を追い出す。

空海はyukihiroさんに向かって
《さっきの格好良かったっすね》
そう言い放ち出て行った。

一瞬ヒヤッとした。

視線を交わす二人の目付きは
普段とは違いお互いを睨むような
そんな雰囲気。

一触即発とはこのことか。

『ダンスやってる奴だっけ、さっきの
仲良いの?』

「仲は・・・」

ハッキリ言ってあまりよく分からない。

初めて空海と会ったのは
レコード会社の中だった。

私の歌を聞いてくれていて
ファンだからと話しかけてきた。

それから会う回数が増えるたびに
河南と言いながら周りをうろついている。

苦笑いする私の顔すぐ近く
yukihiroさんが迫る。

『好きなの?』

近い。

その目に捕らわれて動けない。

「苦手なタイプ・・・です」

今度はソファに追いやられていた。

まただ。

今日は二度も
そうやって私を追い込む。

その度に高鳴る胸の音が
yukihiroさんに聞こえてしまわないだろうか。

『じゃあいいや』

そう言って出て行ってしまった。

何も言葉に出来なくて
ただ高鳴る胸が爆発しそうで
しばらく思考停止したまま
気づけば自宅にいた。
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