-yukihiro side-

嫌なんだよね。

河南を見る男の視線が俺を苛ただせる。

特にあいつ。

前から河南の周りをうろついている奴。

名前は知らないけど気に入らない。

ずっと
テレビには映らないで活動していた河南。

女性ロック歌手の中では
群を抜いて売れている。

顔を出さないから
神秘的なロック歌手と噂されているが
ただ単に極度の緊張症と人見知りで
同じ事務所の俺たちとも
最初は話も出来なくて
テレビは嫌だとずっと身を隠していた。

今、目の前で緊張で震えている河南を
後ろから見ていると悪いけど笑える。

k『あいつ大丈夫か？』

見ているこっちもハラハラする程。

t『河南、やばいんとちゃう』

河南の様子を口々に出すメンバーの
会話を聞いていると
俺まで不安が伝わってくる。

でも河南を放っておけないのは
気になる気持ちが俺にあるから。

hydeくんが声を掛けようとするから
慌てて俺が壁に追いやった。

そしてそんな河南を見世物にするように
頬にキスしたのは
俺なりのやり方で虫退治をしたようなもの。

あのユッキーがねと
Kenくんが笑いを堪えている。

それをじっと睨むとhydeくんが苦笑いする。

終いにはテツくんに
熱でもあるんちゃうかと言われた。

『ほっといてよ』

他の歌手が歌っている時も
心ここにあらずの河南は一番隅に座っていた。

その横にさりげなく座って
あいつから遠ざける。

さっきからチラチラ見やがって。

俺のリズムが
強くなるのを抑えるのが大変なのは
お前のせいだよ、河南。

表に立つって事は
自分の身を守る術を身に付けないと
火傷してからじゃ遅いんだよ。

でも常に俺がいるわけじゃないし
守りきることは出来ないと
一人で笑うしかない。

勘弁してくれ
河南、お前隙だらけなんだよ。

でももしかしたら河南があいつのこと
好きなのかもしれないと思うと
気が気じゃない。

ライバルがいると燃えるのか俺は。

知らなかった自分が心地良い。