チョコレート症候群(hyde)

そんな失態を笑われること一週間。

事務所には
止まることない宅配便の嵐。

『もうすぐバレンタインやね』

とびきりのhydeスマイルが輝いている。

その手元には早々に
ファンからのバレンタインのプレゼントの山。

そう、誕生日プレゼントの整理が終わるとすぐ
2月恒例のバレンタインプレゼントが届く。

私の最大の勤務時間を誇る
12月と1月に続く
2月の始まりである。

『河南ちゃんは誰かにあげるの?』

「へっ?」

何故か裏返る返事。

そりゃそうだ。

hydeさんの隣では彼が作業している。

視線を泳がせながら言う。

「義理ばかりですよ」

あげない。

彼にはあげない。

無駄に終わることが分かっているし
実らない気持ちを
わざわざ告げる必要はない。

『ふーん』

hydeさんの興味なさそうな返事。

手元のプレゼントを机に置くと
自分の仕事に戻るhydeさん。

黙々と作業をしていると
いつの間にかいなくなっていた彼。

小さな深いため息を吐く。

軽く伸びをすると
逆さまに映るhydeさんと目が合った。

『お茶せぇへん?』

hydeさんがいつも愛用しているVAMPSのタンブラーと
私のためのコーヒーを持って
再登場した。

hydeさんに気を使ってもらって
これは私がやるべきなのに
ありがとうございますと
受け取る。

おもむろにプレゼントのチョコレートを空けて
食べ出したhydeさん。

やっぱり甘いなぁって言いながらも
ファンからの気持ちに
感謝しているその姿勢を
尊敬しながら
コーヒーを飲む。

ほっと癒されるアロマの香り。

染み渡る苦味。

『河南ちゃんは俺にはくれへんの?』

突拍子もない質問に
コーヒーが鼻に回りそうになる。

大事なプレゼントがここにたくさんあるじゃないですかと
私のはいらないでしょと
苦笑いするしかない。

そう言えばこの間も・・・

あの時
私がhydeさんの膝で眠ってしまった時も
私の髪を撫でながら
同じ質問をされた気がして
必死に回想する。

あの時は誕生日プレゼント。

今はバレンタインチョコのこと。

いや、夢であろう。

毎年、ファンからのプレゼントに埋もれる為
私からhydeさんに誕生日プレゼントはない。

もちろんチョコも。

もちろんあの人にも。

「ほしい・・・ですか?」

混乱してパニックになる脳。

『決まってるやん』

本当は義理じゃなくて
本命が欲しいんやけどね。

毎年、義理もなかったけどと
軽く告白されて戸惑う。

気づけばhydeさんが
私に寄り合っていて
キスでもしそうな近い距離。

フッと笑うと
考えといてと言いながら
部屋を出て行ってしまった。

私はそのまま志向が停止した。

からかわれているのかもしれない。

本命も私に言ってるわけじゃないかもしれない。

hydeさんが私を特別視しているわけないと
勝手に解釈して終わりにした。

さすがにあのhydeさんが
あんな距離にいたら
口説かれていると勘違いしてしまう。

そうやってファンを増やしているのだなと
感心してしまった。

小悪魔hyde。

いややっぱりヴァンパイアなのか。

そう考えると獲物か私はと
自照した。
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