隣人(hyde)

お手洗いだと立った河南の後ろに
集まりの中でも
人気があると思われる男が着く。

俺と初対面した時の余裕な河南じゃなくて
困り果てて余裕をなくしているそんな河南がいる。

不思議に思う。

ポーカーフェイスな河南を思い描いていたのに
悪いが笑いを堪えるしかない。

河南がいないテーブルでは話が変わっていた。

鳴瀬さんは社長の愛人で不倫が知られたら困ることになるから
連絡先は教えられないらしいと
話題になっていた。

出てきた河南が話を聞いて
また困惑している。

何も感じていないわけではない。

俺の中には怒りが込み上げている。

空気が読めない男が河南に
本当なのか聞いていた。

不倫はしていないが
大事な人がいるので連絡先は教えられないと
キッパリと言った河南に誇りを持てた。

空気が悪くなると同期の女が言う。

シラケると。

座っている椅子が
ガタンと大きな音を立てたのも無視して
早足でテーブルに向かう。

誰?って顔をされたから
サングラスを取ったら
黄色い声が俺を取り巻く。

河南はビックリした顔をして
俺の名前を口にしそうだったから
目配せで黙らせた。

写真はあかんよと言いながら
軽くサインをしたりして
ボルテージを上げる。

そして俺は河南の前に立つ。

ハリーウィンストンの指輪をポケットから出すと
河南の指にはめた。

回りが呆気に取られて
言葉を発せないのを確認すると
頭をポンポンしながら
安心させてやる。

見せびらかすように河南を抱き寄せて
回りに言った。

『いつもこいつが世話になってるみたいで
これからもよろしくな』

スマートに河南を守れたかは分からないが
これがきっかけで
同僚からの嫌みがなくなったと
河南が言っていた。

むしろhydeさんのことを聞かれて
困りますと苦笑いされた。
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