隣人(hyde)

久しぶりに共用施設のバーに行った。

カウンターにひとり座る女性の右横の椅子を引く。

『いいかな?』

笑顔だけの返事が帰ってくる。

話題は自然とこの間の話。

どうやら河南ちゃんには
お兄さんがいるらしく
跡を継ぐ必要がないため
自立した生活をしているらしい。

自分で探した仕事にも必ず付きまとう家柄。

イベント毎の歩合制の仕事も
家のイベントに呼ばれる為
会社の中でも群を抜く。

それが同僚から嫌味になって返ってくる。

自立しても付きまとう家柄に苦悩して
それを受け入れるしかないのだと自分に言い聞かせて
同僚より羽上がる給料をもて余すようになって
高級スポーツカーに乗っていたり
ここに住んでいたり。

「私のただの我が儘なんですよね」

仕事なんか辞めて
自立も辞めて
父親の元へ帰ればいいんだって。

謎に包まれた妖艶な女性が
服を一枚一枚脱ぐように
河南ちゃんの色々が脱げていく。

『河南ちゃんがどこの誰でも俺は愛し抜く自信はあるよ』

「え?」

河南ちゃんの時間が止まる。

自立しながらも
着いて回る肩書に苦悩しながら
前向きに生きている彼女だからこそ
俺は惹かれたのかもしれない。

ただのセクシーな女はどこにでもいる。

だけど内側から磨かれた女はそういない。

『嫌いだったらキスなんかせえへんよ』

戦う君が好き。

「酔ってきちゃったのかな」

目が泳ぐ君が更に愛しく見える。
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