隣人(hyde)

フロントで鍵を開けてもらったあと
シャワーを浴びた河南ちゃんが
貸したタオルと
お礼にとカルフォルニアワインを持ってきてくれた。

『一緒に飲まへん?』

俺は当たり前に首を縦に振ってくれると思っていた。

それが河南ちゃんはニコッと笑う。

「明日のお仕事早いんでしょう」

そう言って手を振りながら玄関を閉めて去って行った。

何故、明日の時間を知っているのか。

俺は睡眠時間を削ってでも
河南ちゃんと飲みたいと思ったのに。

疑問だらけの脳内が睡眠を邪魔する。

しかしそれは翌日知ることとなった。

俺が親善大使を務めることになった
とあるテーマパークで
お披露目会見をすることになっている。

ジャケットに袴と個性ある格好に身支度を整え
颯爽と司会者の合図で登場。

その司会業務をこなしていたのは河南ちゃんだった。

河南ちゃんの背中がパックリ開いた
まるでハリウッド女優さながらの
いつもと違う出で立ちに戸惑いながら
ファンの声援に応え
焦りを顔に出すことのないように
手を振りながら
レッドカーペットの上を歩く。

目が合うと俺はいつもより優しい笑顔を河南ちゃんに向けた。

キスを思い出す。

心地よい唇の余韻。

ただのブライダルサロンの司会をするのが仕事だと思っていた。

そんな河南ちゃんが更に俺を驚かす。

テーマパークの社長と挨拶を交わした際に
娘だと紹介された。

「こんにちは」

会場の男達の視線を浴びながら
河南ちゃんと握手を交わす。

「黙っていてごめんなさい」

一礼をする河南ちゃんの頭を上げさせた。

知り合いなら話が早いと
河南ちゃんの父親である社長が
俺さえよければ結婚相手にと
社交辞令と冗談を交えて話すから
俺は真顔で近い将来に考えさせていただきますと答えた。

一瞬、河南ちゃんの顔が変わった。

それは驚きながら
慌ててポーカーフェイスに戻す瞬間。

それも色っぽく見えてしまうのは
俺が依存しているからなのか。
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