隣人(hyde)

都内
東京タワーが見える高層マンション。

一般には高級とも言われる
そのマンションで俺は暮らしている。

ざわめいている家族向けのマンションではなく
静寂の中に時折足音がして
コンシェルジュが存在感ある
ホテルのようなマンションが気に入っている。

いつものように出掛ける支度をして
仕事に向かうつもりで
玄関を開けた。

外開きのドアは勢いよく開き
通行人に直撃しようとしていた。

「きゃっ!」

女性の声にドアを戻すも
女性のヒールが重心を支えきれずよろめく。

俺は慌てて女性を支える。

まるでスローダンスのように
腰に手を回して受け止めた。

細すぎる腰
スラッとした細い足が
丈の短いスカートから伸びている。

その通行人のセクシーさに
思わず目を奪われる。

「あの・・・」

女性の声が聞こえないほど
見入ってしまっている。

「あの!」

ハッと我にかえる。

「もう大丈夫ですから」

まっすぐに俺を見る女性から目が離せない。

『ごめんな』

女性を立たせると
フッと笑い会釈してくれた。

「隣の鳴瀬です」

初めましてと
今まで見たことなかった隣人と対面した。

鳴瀬さん・・・か。

悪くない。

俺も自己紹介をすると
にこやかに
存じ上げております
ご活躍ですねと丁寧に返された。

鍵を閉める俺。

身なりを整える隣人、鳴瀬さん。

自然に歩幅が重なり
向かう先も一緒になる。

エレベーターの下矢印を押すと
斜め後ろから
下までご一緒してもよろしいですか?と
鳴瀬さんが言った。

『俺で構わへん?』

「ええ」

ドアを押さえて誘導する。

ありがとうございますとお礼を言ってくれたが
あとは何の会話もない箱の中。

エレベーター特有の
チンと音がすると一階ロビーで扉が開く。

鳴瀬さんは一礼すると
またと声を発し
颯爽と歩いて行った。

俺も気持ちを切り替え
地下駐車場から愛車を発車させた。
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