初恋(ken)

仕事を終えた河南が戻ってきて
残り物だけどとカウンターにタッパーを広げる。

それをつまみながら近況報告をして
プリンを食べる。

Kenちゃんが買ってくるプリンは
いつも美味しいねって河南が言うから
からくりを話すと
やっぱりねって笑う。

Kenちゃんがいつも私を支えてくれるんだよって
言いながら
いつの間にか手玉に取られてるな俺。

何してもバレてら。

河南のひとつひとつの仕草や言葉は
今も俺の中で新鮮な輝きを放つ。

学生時代の河南とやりたかったことばかりを
塗りつぶして行く。

そんな他愛もない時間を過ごすことに
幸せを感じている。

俺だけまだまだお子ちゃまかいな。

『Kenちゃん・・・』

急に神妙な顔になる河南。

「ん?」

部屋着に着替えた河南とソファーで寄り添う。

『ここ・・・もうダメかも』

俺は河南の言葉に耳を疑った。

こことは旅館のことやろ?

ダメって何がや?

『Kenちゃんにお金出してもらったのに』

赤字だったか?

俺が知る限りは黒字・・・なはず。

『ギリギリだったの』

赤字の月もある。

その度に補てんする必要はあった。

だから俺は全部を河南に渡したはず。

河南は続けた。

Kenちゃんのお金も使わせてもらってる。
だけどKenちゃんだってミュージシャンでしょ。
自分のお金ないと困るしと。

裏を返せば俺は事務所に所属しているだけで
個人事務所でもない。

副業は規定がかかってる。

だから社長にもなれないし
旅館の収入にもならない。

そこに目をつけられて買収されかかっていると。

ファンド会社とは汚いやり方だな。

「何とかするには?」

『それなりの収入がないと・・・』

俺が事務所を辞めて資産を旅館に持ち込めば
何とかなるかもしれない。

もう少し時間がある。

ならその時間をフルに使うしかない。

俺はこの話を東京に持ち帰ってきた。

河南には買い取られても
旅館はなくならないからと言われた。

だけど河南の旅館じゃなくなるんのは嫌だわ。
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