初恋(ken)

おかんのお茶が懐かしくて
つい再会した日の河南を思い出し
湯飲みを強く握った。

そんなおかんから
河南のお見合い相手を聞く。

ほら、Kenの同級生でいたでしょ?
金持ちの息子。

あの親って何でも金ちらつかせて思い通りにするの嫌いなのよ。

河南ちゃん大丈夫かしらね。

確かお見合いって今日だったわね。

おかんの言葉に耳を疑う。

今日って。

何もアピール出来ないうちに終わったかと思ってた。

これは神様がくれた最後のチャンスかもしれへん。

よりによって
あんな奴とお見合いなんて
だったら俺が奪ったる。

今度こそは意識的に体を動かした。

息を切らし旅館につくと
仲居頭さんが
俺に手招きする。

昔から河南を良く知ると言うその人は
河南が紅葉の間にいることを教えてくれた。

Kenさんの方があんな成金よりよほど似合っている。

今まで頑張ってきた河南ちゃんにご褒美をあげて。

酔っぱらうといつも河南ちゃんが言うのよ。

初恋相手のこと。

Kenさんのことだってバレてるのよねと笑う。

紅葉の間を目指すと
何人かの仲居とすれ違った。

そのたびに俺に
お願いしますと会釈して行く。

気持ち良くなる。

成金なんかより
みんなが俺に河南を託したがる。

そうなんや
俺、頼られてる。

旅館の連中がみんな
河南を信頼しているからこそ
今回のお見合いは反対なんやな。

確信がある答えに
次の手を考える。

紅葉の間をそっと
隙間から覗く。

黙ったまま下を向いている河南は
ぎゅっと着物の袖を握って
成金はニコニコと態度がデカイ。

「好きな人がいるの・・・」

襖の奥からする河南の声。

《この旅館潰れちゃうよ?》

男の声は鼻につく。

俺は居ても立ってもいられずに
勢いよく襖を開けた。

「Kenちゃん?!」

驚く河南の顔。

『俺がこの旅館買うわ』

自慢じゃないが
それくらいの金はある。

「馬鹿言わないで」

立ち上がって
駆け寄る河南の体を抱き寄せた。

《お前北村だよな。
芸能人だからって何様だよ》

そっと河南を離す。

『お前こそ金持ってるからって何やねん。
金出す代わりに結婚なんて今時流行らねぇよ』

お見合い相手と口論になるも
河南をしっかりと捕まえたまま。

『忘れるわけないやん。
お前との約束
叶えるために来たに決まってるやん』

河南の唇を奪う。

背伸びして俺の服をぎゅっと握る手が分かる。

『帰ってもらえへん?
金じゃ河南は買えんよ』
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