初恋(ken)
北村様がお見栄になりましたと
仲居頭に言われ挨拶に向かう。
いつものように挨拶をした後に顔をあげると
そこにはいないはずのKenちゃんがいた。
唖然としている私を他所に
Kenちゃんはあの笑顔で
変わらない髪を揺らした。
北村・・・
よくある苗字だから
気にもしなかったけど
Kenちゃんも北村だったなとあせる。
どうしてこうも
あなたは私を乱すの?
あのままの思い出で良かったと
言わせてくれないの?
あのKenちゃんに騒然となる仲居に渇を入れ
他言無用と部屋に案内させた。
『板についてるやん』
夕食の挨拶回りで
わざとKenちゃんの部屋を最後にした。
お酌をしながら
動揺ばかりで
心から笑えない自分がいる。
「何で?」
『長期のオフや』
真面目な顔つきにドキッとする。
「彼女に振られた?」
和ますつもりの一言と
気を紛らす為の一言が
嫌みとして重なる。
河南の顔が見たくなった。
そう言うKenちゃんの
切ない顔がお猪口に映る。
嘘ばっかりとおどけてみせる。
Kenちゃんが日本酒を一気に飲み干すと沈黙が続く。
その沈黙に耐えきれず
言葉に出してしまった。
「私ね、お見合いするの」
もういい年だし
この年まで独身なんて
売れ残りだよね。
ひきつった笑顔になる。
約束を思い出させるその行為。
わざとのように
口から出てしまった。
『良かったやん』
笑っている?
私はその心が泣いていることを願うよ。
ねぇ、Kenちゃん。
私、本当はお見合いなんて嫌だよ。
Kenちゃんの側にいたいよ。
素直にそう言えたらいいのに。
もういい年の二人が
お互いの顔色を伺い
言葉を選びながら
沈黙と苦笑いを繰り返す。
標準語ではない
独特なイントネーションが
強く感じて
私自身で私自身を傷つける。
行きたくないと
すがりつきたい。
行くなやって
すがりついてほしい。
願わぬ想い。
中庭を日が照らす。
木々から漏れる木漏れ日に
Kenちゃんの姿を見る。
アコースティックギターを片手に
静かな温かい旋律を述べている。
しんなり歩く廊下に立ち止まり
耳を傾けると
ざわめいている心が落ち着く。
迫るお見合いに動揺するのは
毎日顔を合わせるKenちゃん
あなたのせい。
合コンでの再会の日。
こんな奇跡があるなんてって
心臓が飛び出すほどびっくりした。
そして今もまた
こうして顔を合わせている。
もう限界なんだ。
Kenちゃんのギターが目に滲みる。
Kenちゃんが退館する朝。
それはお見合いの日でもある。
お見合い相手は財閥の息子。
経営が苦しい旅館をたち直すための嫁入りを迫られている。
先方の親御さんに気に入られて
経営を立ち直らせるために協力させてほしいと言われた。
その条件が結婚。
その息子も同級生で
面識があることから
勝手に進んで行く話を止められなかったのが現状だ。
「また来てね」
『またな』
Kenちゃんが笑顔をくれる。
笑ってKenちゃんを見送る手に力がこもる。
もう会えないのかな。
たぶん私が結婚したらもう
会えないだろう。
そう都合よく
三度目の奇跡は起こらない。
仲居頭に言われ挨拶に向かう。
いつものように挨拶をした後に顔をあげると
そこにはいないはずのKenちゃんがいた。
唖然としている私を他所に
Kenちゃんはあの笑顔で
変わらない髪を揺らした。
北村・・・
よくある苗字だから
気にもしなかったけど
Kenちゃんも北村だったなとあせる。
どうしてこうも
あなたは私を乱すの?
あのままの思い出で良かったと
言わせてくれないの?
あのKenちゃんに騒然となる仲居に渇を入れ
他言無用と部屋に案内させた。
『板についてるやん』
夕食の挨拶回りで
わざとKenちゃんの部屋を最後にした。
お酌をしながら
動揺ばかりで
心から笑えない自分がいる。
「何で?」
『長期のオフや』
真面目な顔つきにドキッとする。
「彼女に振られた?」
和ますつもりの一言と
気を紛らす為の一言が
嫌みとして重なる。
河南の顔が見たくなった。
そう言うKenちゃんの
切ない顔がお猪口に映る。
嘘ばっかりとおどけてみせる。
Kenちゃんが日本酒を一気に飲み干すと沈黙が続く。
その沈黙に耐えきれず
言葉に出してしまった。
「私ね、お見合いするの」
もういい年だし
この年まで独身なんて
売れ残りだよね。
ひきつった笑顔になる。
約束を思い出させるその行為。
わざとのように
口から出てしまった。
『良かったやん』
笑っている?
私はその心が泣いていることを願うよ。
ねぇ、Kenちゃん。
私、本当はお見合いなんて嫌だよ。
Kenちゃんの側にいたいよ。
素直にそう言えたらいいのに。
もういい年の二人が
お互いの顔色を伺い
言葉を選びながら
沈黙と苦笑いを繰り返す。
標準語ではない
独特なイントネーションが
強く感じて
私自身で私自身を傷つける。
行きたくないと
すがりつきたい。
行くなやって
すがりついてほしい。
願わぬ想い。
中庭を日が照らす。
木々から漏れる木漏れ日に
Kenちゃんの姿を見る。
アコースティックギターを片手に
静かな温かい旋律を述べている。
しんなり歩く廊下に立ち止まり
耳を傾けると
ざわめいている心が落ち着く。
迫るお見合いに動揺するのは
毎日顔を合わせるKenちゃん
あなたのせい。
合コンでの再会の日。
こんな奇跡があるなんてって
心臓が飛び出すほどびっくりした。
そして今もまた
こうして顔を合わせている。
もう限界なんだ。
Kenちゃんのギターが目に滲みる。
Kenちゃんが退館する朝。
それはお見合いの日でもある。
お見合い相手は財閥の息子。
経営が苦しい旅館をたち直すための嫁入りを迫られている。
先方の親御さんに気に入られて
経営を立ち直らせるために協力させてほしいと言われた。
その条件が結婚。
その息子も同級生で
面識があることから
勝手に進んで行く話を止められなかったのが現状だ。
「また来てね」
『またな』
Kenちゃんが笑顔をくれる。
笑ってKenちゃんを見送る手に力がこもる。
もう会えないのかな。
たぶん私が結婚したらもう
会えないだろう。
そう都合よく
三度目の奇跡は起こらない。