初恋(ken)

Kenちゃんはプロを目指して上京したと人伝に聞いた。

寂しかった。

もう会えないのかなって
そう思っていた。

人気が出てテレビに出るようになっても
変わらない笑顔はもう
私のものじゃない。

いつまでも私の心に居着いているのが心地よくて
テレビを見る以外では
見ないようにしていたのに。

会ったことから
崩れ落ちた思い出は
積木のように
新しく積まれてしまった。

10年ぶりの生の笑顔が
私の心をかき乱す。

不覚にもまたときめいたのだ。

でもいいのかな。

お互いにフリーなんだし。

『送っていくよ』

「大丈夫だよ」

もう大人なんだし
一人で帰れる。

そう言ったら頭をコツンとされた。

『自分、女やん』

心配してくれたのかな。

コツンとされた頭が妙に熱い。

今まで知らなかった連絡先が
携帯に登録された。

ずっとずっと憧れていた
Kenちゃんの番号。

数日経つと飲みに行こうとメールが入ってきた。

待ち合わせのお店に行くと
まだ来てないKenちゃんに
胸が高鳴る。

洋服、変じゃないかなとか
髪形、変じゃないかなとか
ドキドキしっぱなしで
手が震えちゃう。

そこへKenちゃんがドアを開けた。

遅れてごめんと
その独特なイントネーションと
いつもの笑顔に
猫っ毛がふわりと揺れていた。

二人きりの個室に
手が汗ばむ。

少しのアルコールなのに
大量に呑んだかのように
酔ってしまうのは
お酒のせい?

そんな私の気持ちを他所に
事あるごとに
デートみたいに
Kenちゃんと出掛けることが増えた。

破れるほどに心臓に悪い。

普通でいられなくて
背伸びしている自分にも気付いている。

でも、いいのかなとも思ったことを伝えることはない。

これ以上の関係を
Kenちゃんに求めてはいけない。

悪までも幼馴染み。
同級生の友達。

何度も会ううちに
彼女になったかのような錯覚に落とされる。

私は彼女じゃない。

密かに
自分の中だけで格闘する。

散々自分に言い聞かせて堪えてきた。
2/15ページ
スキ