ノイズ(yukihiro)

通話中の電話はどうしただろうか。

電話の向こうのユキはどうしただろうか。

何もかもがどうでもよくて
考えることを止めた。

『河南、大丈夫?』

優しく気にかけてくれるのはユキ。

来てくれたんだ。

開けっぱなしの玄関はユキが閉めてくれた。

何もなかったとは言え
ショックを隠しきれない私は
放心状態で何もしゃべれない。

ユキは力強く抱き締めてくれる。

ユキの匂いや温もりを感じると
涙が止まらなくなってしまった。

それでもずっと包んでくれる。

私はユキの背中に手を回し
ぎゅっと服を掴んだ。

あれから静かな
今までとは違う新しい時間が
私の中で動き始めた。

ユキに言われて引っ越しを決めた日
彼の姿がそこにあった。

引き払う部屋の前。

思わず隣のユキにそっと身を寄せる。

《この間はごめん》

頭を下げる彼。

「私の方こそこんな形になってごめん」

そこには今まで付き合ってきた
優しくて穏やかな彼がいた。

《幸せにして貰えよ》

そして彼はユキにも頭を下げた。

《こいつ頼みます》

ユキも笑顔で返す。

笑顔の彼に
頭をポンとされる。

温かい大きな手に一瞬でも照れてしまった。

彼が恋人だったことは忘れない。

ありがとう。

ユキの部屋は殺風景。

河南の好きなように飾っていいからと言われたものの
リビングはそのままにした。

キッチンと自分の部屋だけは私のスペース。

そうユキと同棲している。

安心して暮らせる場所はここしかないと
ユキに強制に決められた。

彼氏として見ると
やっぱり俺様な
少し強引なユキ。

でもそんなユキがいい。

そんな・・・

「ユキ大好きだよ!」
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