ノイズ(yukihiro)

嗚咽がするほど涙が止まらない。

会いたい。

泣くのはユキの胸がいい。

人一倍独占欲が強い彼だってことは
長い付き合いの中で分かっていた。

結婚も視野に入れた付き合い。

もう少し大人だと思っていたのに
こんなに豹変するなんて。

ユキとは連絡をとっていないのにも関わらず
彼はユキがやるイベントの情報を仕入れて来て
私を見せびらかすように行った。

丈の短いタイトなスカート。

サイズの合わないピンヒール。

フロアに媚びた格好は
回りの男性の視線が突き刺さる。

声をかけられる度
彼にこいつは軽い女だから
やらせてくれると
黒い言葉を浴びせられる。

ユキとは
あなたと別れるまでは
体の関係は持たないと
約束していたのに。

帰ることも許されず
彼を睨み続ける。

ユキの冷たい視線と
さらにノイズがかったダンスチューン。

いつもより激しいナンバーは
ファンを更に魅了している。

ユキの視線が痛くて壊れてしまいそう。

イベントも終わり
フロアが空になる。

慣れないヒールに締め付けられた爪先が
解放されたくて脱いだ。

それと同時に私自身も解放されたくて
酸欠と精神的に
幾度となく目眩を起こしていたのが限界を越えた。

倒れる。

そう思ってからはスローモーション。

すっぽり収まったのは
ユキの腕の中だった。

《離せよ》

そう横から聞こえる彼の声を
意図的にシャットダウンして
ユキの温もりに集中した。

『河南をこんなにしたのはお前だよ』

ユキの言い放った言葉は
彼を怯ませる。

彼は私が脱いだヒールを
ゴミ箱へ投げ捨てて出て行った。

そのままユキに抱っこされて
クラブを後にした。
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