MEMORIES(hyde)

その夜、
hydeさんが訪ねてきた。

「久しぶりに日本の香りがします」

私は笑顔で迎えた。

『たまにはどうかな』

hydeさんの手には
輸入ビールの瓶。

それを受けとると
ひとくち口をつけた。

どのくらいぶりなのか。

胃に染み渡る。

『朝はごめん』

正直、興味本位で
難民キャンプの撮影を
決めてしまったことを
後悔したと言ったhydeさんに対して
興味と現実は違うのだと
言いたかったが止めた。

「気にしないで」

しばらくの沈黙のあと
口を開いたのはhydeさん。

『河南はどうしてここに?』

薄暗いろうそくの炎が揺れる。

私は語り始めた。

発展途上国の町で
井戸堀りのボランティアで
アゲハと知り合った。

文通を初めてすぐに
インターネットが普及した。

ネットでアゲハと情報交換をしながら
世界共通の音楽で
親交を深めた。

しかし他国のテロから
戦争になり
両親を失ったアゲハから
最後のメールをもらったのがきっかけだった。

「アゲハの悲鳴が聞こえたから」

私も両親がいない。

生まれてすぐに事故で死んだ。

ひとりぼっちの気持ちは
まだ幼いアゲハにしてほしくなくて
アゲハを助けにきた。

だけど現実は
いくら難民キャンプだからといって
平和になったわけではない。

傷ついた人達が集まって暮らすだけで
一日を生き延びるだけで
精一杯。

助けるなんて出来なかった。

だから
助けられないのなら
一緒に生活をして
アゲハの親がわりになればと
ここに留まった。

餓えをしのぐことが出来ずに
死に行く人もいる。

小さな命も火が消えてしまう。

この中ですら争いも多く
足を伸ばすことすら出来ない。

胸が痛い。

揺らめく炎越しに
涙を流していたのはhydeさんだった。

「泣かないで」

私はhydeさんを抱き締めた。

「大丈夫。みんな強いから」

それでも
楽しいことがあれば笑える。

歌ったり
踊ったり
共通することはいっぱいある。

小さな幸せが
生きる原動となる。

その姿を窓の隙間から
アゲハが見ていた。
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