僕の彼女シリーズ(ALL)

僕の彼女はウェイトレス



いつもいる長身の男性。

カフェコーナーの人目につきにくい
奥のテーブルに背を向けて陣取っている。

接客はしなくて大丈夫だからと
河南さんに言われて
時折、河南さんが声をかけては
気にかけている。

そして決まって柔らかい髪の毛が揺れる。

優しそうな人。

第一印象はそう思った。

数日するとまた同じ男性が
テーブルに座っていた。

今度は河南さんも一緒に座っていて
終始笑顔の彼。

どこか見たことのある男性が
気になって仕方ない。

河南さんの彼氏でもないし・・・

もしかして!
メンバーのKenさん?

可能性はある。

するとその男性に手招きされた。

「私ですか?」

河南さんの顔を見ると頷いて私を誘う。

『自分、名前は?』
「麻帆です・・・」

オープン当時からここでお世話になっている。

じっくりこの男性を見れば
やはりメンバーのKenさんだった。

そして指を指された。

『何で制服、毎日違うん?』

それには理由がある。

火曜日 ベストのカマースタイル
水曜日 パン屋のコックコートスタイル
木曜日 タイトスカートの英国スタイル
金曜日 ロングエプロンのヨーロピアンスタイル
土曜日 ジャンパースカートの横浜スタイル

オープン当時はコックコートを着ていた。

今のカフェスタイルになってからは
ロングエプロンに変わった。

だけどコックコートも放置じゃ
せっかくの制服なんだしと着始めたら
色々なスタイルも試したいと
気付いたら5枚になっていた。

だから毎日違う曜日スタイルになった。

そしてまた彼から指摘された日曜日は
メイドスタイル。

日曜日の混雑の中で
Kenさんはまた奥のテーブルに座っていた。

河南さんに聞く。

hydeさんやyukihiroさんみたいに
二階に行かないのかと。

そしたら河南さんが笑う。

あのKenちゃんだよ?
あそこで仕事してるふりして
女の子たち見て
ニヤニヤしてるに決まってるじゃんって。

そんなこと言えるのは河南さんだからかな。

hydeさんとはもう長く相思相愛。

私たちスタッフの憧れの二人。

このカフェの二階に
L'Arc~en~Cielの面々がいるなんて
誰も考えもしないだろうけど。

麻帆ちゃんこれ持っていってと
河南さんに頼まれてKenさんのいるテーブルへ。

この間、何で制服が毎日違うのか聞いたやん?
河南ちゃんに聞いたら
麻帆ちゃんだっけ?
麻帆ちゃんなりのこだわりがあるみたいだから
直接、本人に聞いてって言われたん。

そう話かけられた。

河南ちゃん冷たいやんなぁ
そう言ってKenさんは遠くを見た。

何だか寂しそう・・・

それなのに今日の制服が一番萌えるとか
Kenさんらしい言葉を言われた。

Kenさんは、もしかして河南さんのこと。

たぶん、そう。

hydeさん相手じゃ勝ち目もなく
見守っているのかな。

その日から私は
河南さんを見つめるKenさんに
目を奪われて意識するようになった。

何だか切ないよね。

どうにもならないのが分かっているから余計に。

「Kenさんは河南さんが好きなんですか?」

最近はKenさんの珈琲を差し出すのは
河南さんじゃなくて私だ。

差し出した珈琲を一口すすったKenさんの
口からだらしなく珈琲が溢れた。

『自分、何言ってんの』

慌てて口元を押さえたKenさんに確信した。

「視線・・・バレてます」

その言葉にKenさんはため息を付いた。

『気付かへんのは河南ちゃんだけやん』

hydeだって
Kenちゃんダメだよって念押しするのに
河南ちゃんだけ
Kenちゃんって俺に優しくするから
俺には河南ちゃんが
天性の小悪魔にしか見えへんって
そう話してくれた。

「Kenさんの片想いはお砂糖みたいですね」

ほろ苦い珈琲を優しく包み込み
溶けて形なくなる砂糖。

『せやな』

また途切れた会話。

続かない会話の向こう
私の気持ちも通じないほど
この人の感情に私はいない。

私も切ない。

一礼してテーブルを去る。

そのあと普通に仕事していたら
いつの間にか彼はいなかった。
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