僕の彼女シリーズ(ALL)

再び訪れたパン屋は定休日だった。

『テンション下がるわ』

独り言を言うタイミングと
後ろから話しかけられるタイミングが重なる。

「tetsuyaさん?」

びっくりして振り替えると
風のような透明感のある女の子がいた。

「今日は定休日なので
hydeさんはいませんよ?」

裏口の鍵をすんなり開ける彼女が
誘導してくれる。

「河南さんに許可貰ってるので大丈夫ですよ」

誰もいない店内のカフェコーナーの灯りを
慣れた手つきで付けて行く。

『実は定休日知らなくて
その・・・コーヒーを買いに』

何故か、しどろもどろな俺。

何、緊張してんやろ。

『君は?』
「バリスタの七瀬です」

そのまま会話は続く。

「新しい豆を手に入れたので試したくて」

静かな店内は
普段の雰囲気とはまったく違って落ち着く。

促(うなが)されるままカウンターに座ると
店内を見回す俺を余所に
マシーンを起動させて作業をする彼女。

すると小さなエスプレッソカップに入った
コーヒーが出てきた。

「新しい豆なんですけど
一口味見しませんか?」

微笑む彼女にドキッとしてしまった。

油断した。

酸味とコクと甘いコーヒーの香り。

「パナマコーヒーなんですけど
いかがですか?」

あまり手に入らないから
少ししかお出し出来なくてすみませんと
目の前にはコーヒーを楽しむ彼女。

確かに旨い。

「お持ち帰り用でいいですか?」

彼女の質問に対して
あまり口を聞かなかったせいか
彼女も仕事モードに戻ったみたいだ。

『いや、ここで飲んでもええかな?』
「はい」

何故やろ
立ちたくない。

すると
可愛らしいアートがされたラテが出てきた。

思わず笑顔になる。

『ありがとう』
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