僕の彼女シリーズ(ALL)

美鈴が留学してから俺は一心不乱に
毎日ドラムを叩き続けた。

せっかく気持ちが通じたのに
すぐに離れ離れ。

こればかりは河南ちゃんを憎むよ。

海の向こう
美鈴が纏う(まとう)香りは
何のコロンでもなく
甘い甘いカカオの香り。

それが堪らなく好きなんだ。

だから美鈴に会う時は
必ず先に抱き締めて
体いっぱいにカカオを取り込む。

ベルギーまで14時間以上の
道のりの疲れも癒される。

以前、hydeくんが
河南に会う時はコロンを付けないと
言っていたのを思い出す。

最初はラブラブ過ぎて
ごちそうさまと思ったが
今の俺はあの時のhydeくんと同じだ。

恥ずかしくて鼻の頭を掻く。

俺の一方的なキスも
素直に受け入れてくれる美鈴がまた可愛くて
浮かれたリズムで乱れそうだ。

最近のユッキーは機嫌がいいと
Kenちゃんに言われる始末に
hydeくんは分かっていてとぼけている。

苦笑いするしかない俺自身に自惚れる。

幸せだ。

会えないのは寂しいけれど
仕事は充実していると
美鈴のメールが届いたり。

定期的に店に届く美鈴のショコラを
hydeくんが持ってきてくれる。

『やっぱりうまいよ・・・』

寂しくて
そんな気持ちを隠して
いつもより激しいリズムを打ち付ける。

1日のオフじゃ会いに行けない距離感が
もどかしくて
イラつく日もある。

だけど俺もhydeくん同様の
壮大な計画を実行中なわけで
それを美鈴に見せるために
心が折れている場合ではない。

巡る季節
数えられるくらいしか美鈴に会えなかった。

それでも一年を乗り越えて
再び俺は空港にいる。

椅子に座り両手を膝の上で組んで
ただ時間がくるのを待った。

大きな荷物が足元に現れる。

「yukihiroさん」

座ったまま美鈴の腰を抱く。

美鈴が俺の髪を撫でる。

「ただいま」

変わらないカカオの香りに力がこもる。

『遅いんだよ』

美鈴を連れて俺の家へ車を飛ばした。

何よりも今は美鈴を味わいたい。

美鈴を俺で埋め尽くしてやる。

「え?」

翌朝、美鈴を店に連れて行くと
美鈴から驚きの声。

美鈴ちゃんお帰りと
河南ちゃんが店から出てきて
すぐにこっちだよと
美鈴の手を引いて店内に戻って行った。

俺は裏口から二階に上り
ドカッと椅子に座った。

ヤバイ。
顔がにやけている。

最初に提案してくれたのはhydeくん。

だったら俺が費用を出すと言い切って
ショコラとカフェスペースの増築をした。

そして俺がいるここ。

二階に俺と美鈴の部屋も作った。

これでhydeくんに邪魔されないで
美鈴と二人きりになれる。

トタトタと美鈴特有の足音が聞こえると
勢いよくドアが開く。

そのまま俺の元へ止まらないから
立ち上がって受け止める。

『おっと』

ぎゅっと美鈴の力が体を締め付ける。

「yukihiroさん!ありがとう!」

そして美鈴からのキス。

海外に一年間行っていた彼女は
大胆になったようで
不覚にも照れてしまった俺がいた。

『俺を照れさせるなんて許さない』

だから俺から熱い口付けをする。

「ん・・・」

俺の大好きな
甘いチョコレート味のキス。

俺だけのショコラティエにならないのが
悔しいけど
美鈴のショコラを
楽しみにしている子達を見ると
美鈴を誇らしげに思う。

ーfinー
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