『行っておいで』

涙を流す美鈴を優しく抱き締めた。

美鈴は行くなと止めてほしいだろう。

だけど
河南ちゃんがくれたチャンスを無駄にするなと
送り出す。

「離れたくない」

美鈴の気持ちが揺れているのは分かっている。

会いに行く。

美鈴の愛しい顔を両手で包む。

半ば無理矢理なキスも俺らしい。

強く背中を押してやる。

待ってるから
安心しろよ。

そう説得して決めさせた。

見送る屋上では飛行機の音が
俺のリズムを狂わせた。

hydeくんが持ってきたショコラは
俺と美鈴を出会わせてくれた。

あの日
美鈴の名前を聞いた時
俺は捕らわれてしまった。

hydeくんと河南ちゃんに笑われるほど
毎日、美鈴の元へ通った。

最初はhydeくんに用だと言い訳をしたが
それも面倒くさくなって
黙って二階に押し入った。

hydeくんも何も言わずに
河南ちゃんも何も言わずに
二人してニヤニヤするから
やめてくれと頼んだ。

俺の前に並ぶショコラじゃなくて
美鈴の手を握った初めての日は
今から少し前。

気持ちを打ち明けるつもりだったのに
逃げられた。

ショコラの腕が上がる美鈴の留学を
手続きしたのは河南ちゃん。

もちろん先に相談されていた俺は
美鈴のために賛成した。

１年・・・
長いようで短いようで
だけど俺は美鈴を待つ自信はある。

美鈴には立派にショコラティエの道を歩んでほしい。

俺の願いでもある。

帰ってきたら容赦しないよ？

俺だけのショコラは誰にも溶けさせない。