距離(kaz)

今日が終わったらKAZはまたVAMPSとして
世界のKAZになる。

私がいる隙間がないのは分かっている。

寂しいとは思わない。

私はきっと一生KAZに片想いし続けるつもりだから。

KAZはただ飲むだけ
私も片付けをするだけで
無言の時間が過ぎるだけ。

片付けが終わると私は
あるケースを持って
KAZの隣に座った。

『それ・・・』

「懐かしいでしょ?」

昔、KAZがピック入れに使っていた缶ケース。

KAZが上京する時に
私にくれた。

今は私の宝物入れになっている。

KAZが使っていたピックと一緒に
KAZが送ってくれたライブチケットの半券の山。

「行けなかった時もあったんだけど・・・」

ずっと送り続けてくれたチケットを一枚残らずしまってある。

「大活躍だね」

ケースの中の半券を見ては戻してを
数回繰り返しているKAZ。

今日が終わったらまた
雲の上の存在になっちゃうんだね。

こうして十何年ぶりに会うことさえ不思議な存在。

会いに行けば会えるかもしれない。

だけどもう手が届きそうにない。

溢れる涙をKAZに見せないように席を立った。

「何か食べる?」

誤魔化すような発した言葉。

歩き出した途端に
腕を引っ張られて
気づけばKAZの腕の中にいた。

『分かってるくせに』

そう・・・分かってる。

何のためにKAZが帰ってきたのか。

それでもそれを拒否しなければ
KAZは自由に羽ばたつことが出来ない。

ずっとKAZにしてきた恋は
私の一方的な片想いでいいのに。

『hydeくんだって結婚してるし』

「奥様に寂しい思いさせてない?」

沈黙の中
KAZの鼓動が耳に残る。

寂しくないって思わないはずがない。

ただ愛を決めて
寂しくないと暗示をかけるしかない。

だってそうでしょう?

寂しいから行かないでとは言えない。

だったら最初からそう思わないほうがいい。

故郷を離れることが出来ずに夢を諦めた人
上京しても夢に破れて故郷に帰って来た人。

様々な人間模様がこのライブハウスにはある。

ここから夢を掴んだのはKAZだけかもしれない。

それなら尚更
私が受け止めることは出来ない。

KAZの気持ちにずっと気付いていた。

手紙も何もないけど
いつもライブでは最高の時間を見せてくれた。

約束してたんだよね。

KAZが成功したら
毎回ライブを見に行くからって。

じゃあチケットはプレゼントする
河南が来る時は必ず最高のライブにするって。

高校生だった私との約束なんて
口だけだと思っていたのに
ある日チケットが送られて来た時には泣いた。

KAZの気持ちが嬉しくて
毎回ライブに行った。

だけど歳を重ねると
KAZの邪魔をしてはいけないんじゃないかって思うようになり
KAZを忘れたくて結婚した。

まさかKAZが帰ってくるなんて。

会場の予約が入った時は手が震えた。

断ろうとも思ったけど
せっかくならこの会場で迎え入れたくて協力した。

KAZに会えるって緊張してた。

こうなることは予感していた。

だけどKAZに抱き締められると
ずっと抑えて来た気持ちが
溢れそうで怖い。
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