距離(kaz)

『hydeくんと何を話していたの?』

珍しくKAZからの質問。

いつもKAZはにこやかに微笑んでいた。

いつも質問するのは私の方。

質問に対して返してくれる言葉は一言二言。

だけどそれでもKAZと同じ空気が吸えるだけで満足だった。

そんなKAZが私に質問してきたのだ。

それがすごく新鮮で
それがすごく嬉しくて
その質問にKAZの何かを見た。

「KAZがここに決めたんだって?」

グラスを洗いながらKAZを見る。

あの時みたいな
兄妹みたいな感覚がない。

自分自身が歳を重ねたせいなのだろうか。

今はKAZを男として
恋よりも愛を対象とした
そういう気持ちでKAZを見ているのだと自覚して
思わず洗っていたグラスを落として割ってしまった。

『河南、結婚してないの?』

次の言葉もKAZから。

「KAZのことだから知ってるんでしょ?」

お互いを探る様な会話。

私は離婚した。

社会に出て知り合った男性と結婚したけれど
子供が出来なかったせいか
色々な歯車が狂い始め
溝を埋めることが出来ずに
別れた。

きっとKAZなら知っている。

KAZとバンドを組んでいた友人や
KAZの同級生も今もたまにここに来る。

河南ちゃん美人になったなってからかわれることもある。

だからきっと知っている。

知っていてほしいと
そう願う。

『まあね』

KAZの低い声がまた動揺させる。

「やっぱりね」

ポーカーフェイスを決めても敵わない。

割れたグラスを片付けながら
KAZの空になったグラスにワインを注ぐ。

hydeさんには出さなかった
KAZの生まれ年のワイン。

今日この日に空けようと決めていた。

「おかえりKAZ」

そしてまたここから旅立って行くだろうKAZに
お祝いと感謝を込めた。
2/4ページ
スキ