夢短編
神様の目の前で、結婚するはずの人とは違う、別の人のことを考えている私は、間違いなく最低な人間だと思う。純白のドレスの裾を見下ろしながら、神父様の長ったらしいお言葉を聞き流す私は、ここにいる全ての人を裏切っている。
今すぐ、迎えに来たよお姫様、なんて言って、連れ去ってほしい。奪いに来たよ、と笑ってほしい。そんなこと、起こりはしないんだけど。
パイプオルガンの音、祝福の歌、神父様のお言葉、拍手、その全てが恨めしくて、耳障りだった。私はベールの下で唇を噛んだ。途端、勢い良くドアの開く音がして、全ての音が止まった。
「その結婚ちょっと待った!」
良く通る声が、教会に響く。余興?なに?とにわかに騒がしくなる親族席。りょうた、と呟いた声は、誰にも聞かれずに落ちていった。
何それ、そんな台詞ある?本当に余興みたいじゃん。新郎と親族席が慌てている中で、笑っているのは私と涼太だけ。迎えに来てくれたんだと、拐ってくれるんだと思うと、嬉しくて仕方なかった。
純白のスーツに、赤いバラの花束を抱えて、バージンロードを堂々と歩いてくる涼太を、私は待っていた。いつものように余裕たっぷりの笑顔で私を見据えて、恭しく手を差し出す涼太を、私は待っていた。だから、ベールを投げ捨てて、花束も投げ捨てて、純白のドレスの裾をはためかせながら、バージンロードを走った。腕を広げる涼太に飛びつくと、力強く抱き締め返してくれたから、少しだけ泣きそうだった。待たせてごめん、と涼太が謝るから、ううん、と首を振って、涼太の肩口に顔を埋める。迎えに来てくれて嬉しい、と呟くと、軽々と抱き抱えられて驚く。
「じゃあ、行こうか」
愛おしいものを見る顔でそう言われて、涼太の首もとにしがみつく。周りがぽかんと口を開けて間抜けな顔をする中で、私たちは逃げる約束をして、ドアを開けた。さようなら、と心の中で呟いて、式場を飛び出した。
「運転できるの?」
式場の前には、高そうな外車が止まっていて、涼太が迷わずそれに乗るから、思わずそう聞く。軽く片眉を上げた涼太は、もちろん、と笑った。赤いオープンカーは、涼太と逃げるのにはぴったりだと思った。
どこへ行こうか。海の見えるところがいいな。そんな会話をして、青空の下で風を感じる。海へ行って、結婚しようか、なんて涼太が言うから、そうだね、と頷いた。
あそこに何もかも置いてきてしまったけれど、多分必要ないし、良いよね。涼太がいれば、もうどうだって良いよね。病めるときも、健やかなるときも、あなたを愛すと誓うから、お願い、涼太も誓って。何もない左手の薬指は、涼太のために取っておいたから。誓いのキスも、涼太のために取っておいたから。お願い、誓って。
「このままハネムーンでも行こうか」
そう笑う涼太の、白いスーツが眩しい。胸に飾られた薔薇が揺れて、ああ、途方もなく好きだと思った。全てを失っても良いと思えるくらい、好きだと思った。涼太がいれば、何もいらないと思えるくらいに、好きだと思った。
今すぐ、迎えに来たよお姫様、なんて言って、連れ去ってほしい。奪いに来たよ、と笑ってほしい。そんなこと、起こりはしないんだけど。
パイプオルガンの音、祝福の歌、神父様のお言葉、拍手、その全てが恨めしくて、耳障りだった。私はベールの下で唇を噛んだ。途端、勢い良くドアの開く音がして、全ての音が止まった。
「その結婚ちょっと待った!」
良く通る声が、教会に響く。余興?なに?とにわかに騒がしくなる親族席。りょうた、と呟いた声は、誰にも聞かれずに落ちていった。
何それ、そんな台詞ある?本当に余興みたいじゃん。新郎と親族席が慌てている中で、笑っているのは私と涼太だけ。迎えに来てくれたんだと、拐ってくれるんだと思うと、嬉しくて仕方なかった。
純白のスーツに、赤いバラの花束を抱えて、バージンロードを堂々と歩いてくる涼太を、私は待っていた。いつものように余裕たっぷりの笑顔で私を見据えて、恭しく手を差し出す涼太を、私は待っていた。だから、ベールを投げ捨てて、花束も投げ捨てて、純白のドレスの裾をはためかせながら、バージンロードを走った。腕を広げる涼太に飛びつくと、力強く抱き締め返してくれたから、少しだけ泣きそうだった。待たせてごめん、と涼太が謝るから、ううん、と首を振って、涼太の肩口に顔を埋める。迎えに来てくれて嬉しい、と呟くと、軽々と抱き抱えられて驚く。
「じゃあ、行こうか」
愛おしいものを見る顔でそう言われて、涼太の首もとにしがみつく。周りがぽかんと口を開けて間抜けな顔をする中で、私たちは逃げる約束をして、ドアを開けた。さようなら、と心の中で呟いて、式場を飛び出した。
「運転できるの?」
式場の前には、高そうな外車が止まっていて、涼太が迷わずそれに乗るから、思わずそう聞く。軽く片眉を上げた涼太は、もちろん、と笑った。赤いオープンカーは、涼太と逃げるのにはぴったりだと思った。
どこへ行こうか。海の見えるところがいいな。そんな会話をして、青空の下で風を感じる。海へ行って、結婚しようか、なんて涼太が言うから、そうだね、と頷いた。
あそこに何もかも置いてきてしまったけれど、多分必要ないし、良いよね。涼太がいれば、もうどうだって良いよね。病めるときも、健やかなるときも、あなたを愛すと誓うから、お願い、涼太も誓って。何もない左手の薬指は、涼太のために取っておいたから。誓いのキスも、涼太のために取っておいたから。お願い、誓って。
「このままハネムーンでも行こうか」
そう笑う涼太の、白いスーツが眩しい。胸に飾られた薔薇が揺れて、ああ、途方もなく好きだと思った。全てを失っても良いと思えるくらい、好きだと思った。涼太がいれば、何もいらないと思えるくらいに、好きだと思った。
