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1話



「ーーー御巫早苗さんっっ!!!」

金切り声に近い声で、誰かが名前を呼んでいた。

春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、この暖かな陽気に負け、矢絣の着物に紫の袴を纏った少女ーーーすなわち、御巫早苗は夢の中にいた。


「御巫!早苗さん!!!」

次に名前を呼ばれたかと思えば、脳天に一撃、何かをくらった。

思い瞼をうっすらと開けてみれば、そこには担任の椿塔子ーーー通称・椿姫が立っていた。

こめかみに青筋を立て、片眉をピクピクさせ、さらには眉間に皺までよっている。
完全に怒りに満ちた表情で自分を睨む椿姫に、早苗は視線をキョロキョロと動かしながら、周囲の学友に助けを求めた。

しかし、怒り心頭中の椿姫に関わっても何も良くないことがわかっているので、学友たちはそれぞれ視線をあらぬ方向に向けた。

「いいですか、御巫早苗さん!」

あ、これは長い説教が始まるな。と皆が悟った時、

「椿先生!早苗さんのことよりもまず授業を続けていただけませんか?」

助け舟が出された。

「早苗さんは後で教員室に呼び出せば済むことですし…」

と、思いたかった。

「それもそうね。早苗さんは放課後教員室に来るように!」

そう念を押して、椿姫は黒板の方へと向かった。

後々教員室にいくことになっても、今この場で椿姫のお小言が始まるのを避けたいのは、早苗だけでなく、この教室で学ぶ学友みんなの思いだった。

春の陽気に当てられてウトウトしてたのは早苗だけではなかったはずだが、彼女は居眠りの常習犯、毎度のように怒られて、毎度のように教員室に呼び出される。


まあ、それは実家で夜遅くまで起きて、頼まれごとをしているのだから、仕方ない部分があるのだが、そんなことは学友も椿姫も知らないので、放課後は素直に教員室に行くしかないのだった。


授業が終わる合図が鳴り響くまで、早苗は今日のお説教の内容はいつもと違えばいいなぁ、と呑気に考えていた。



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