「私もバカだから……ちゃんと言ってくれなきゃ分からないんだよ」

　泣きそうな声は、言葉の向こうにある思いを俺に伝えてくる。その時になってようやく、俺は気付いた。
　詩織が何を求めているのか。
　俺が今、何をすべきか。

「……悪ィ」

　謝りながら、体を起こす。詩織の眦で光る涙を唇で拭いながら、俺は言った。

「ずっと、お前だけを見てた」

　俺の言葉に、ピクリと詩織の体が揺れる。それでも俺は続けた。

「でも、言えなかった。誰よりも大切だからこそ、この気持ちを伝える事で今までの関係が崩れて、お前が離れていくのが怖かった」
「銀さん……」

　俺の言葉を静かに聞いていた詩織が、小さく息を吐く。そしてホッとした表情を見せて言った。

「そんな心配、いらないのに」
「詩織……？」
「私だって銀さんが、誰よりも大切な存在なんだもん……」

　そこまで言って、何故か口をつぐむ詩織。俺から視線をそらし、はにかむように唇を噛むと、小さく消え入りそうな声で言った。

「離れられるはず、ないよ……」
「……ッ！」

　胸が一杯になり、言葉が出ない。喜びと、幸せと、更に大きくなった独占欲は、不安と嫉妬を一瞬で消し去った。

「……詩織」

　しばらくの間、感動を味わった俺は、静かに詩織の名を紡ぐ。

「ん？」
「本当に俺で良いんだな？」
「……うん」

　頬を染め、小さく頷いた詩織にキスを落とした俺は、詩織を支えながらゆっくりと体を起こす。そして腕の中に引き寄せると、壊れ物を扱うように優しく、でも強く抱きしめながら言った。

「……好きだ」