ふと目を覚ますと辺りは薄暗く、日は傾きかけている。飲みすぎたせいか、激しく頭が痛い。
　こめかみを押さえながら状況を確認すべく、目だけで辺りを見回すと、そこは万事屋の廊下で。何故か俺は、毛布をかけられた状態で横たわっていた。

「いつの間に帰ったんだっけか？」

　吉原までの記憶しか無い俺は、まァ無事に帰れたならいいかと思い、とりあえず水でも飲もうと体を起こす。すると奥の部屋に、女の人影が見えた。

「神楽かァ？」

　この家にいる女は神楽しかいねェから。当たり前のように名を呼んだが、返ってきた声は、全くの別人だった。

「飲みすぎよ、銀さん」
「詩織……ッ！？」

　驚いて立ち上がろうとしたものの、悪酔いした俺の体は踏ん張りがきかず。結果、慌てて駆け寄り手を差し伸べてきた詩織を、床に押し倒す形で倒れてしまった。

「悪ィ、大丈夫だったか？」

　怪我をさせていないかと心配になり、訊ねる。幸いなことに、詩織は傷一つ負ってはいないようだ。だが、「私は大丈夫だけど……」と言う詩織の顔には、怒りがにじみ出ていた。

「悪かったっつってんだろ。んなこえェ顔してんじゃねェよ」
「怖い顔にもなるわよ。こんなベロンベロンになるまで深酒するなんて、少しは自重しなさいよね！　しかも女の人と一緒だなんて……」

　俺の下で、「もう！」とすねた顔を見せる詩織。そして俺の頬を両手で挟むと、まっすぐに俺を見つめ、絞り出すように言った。

「ずっと私の……独りよがりだったの……？」
「……ッ！」

　酔いで自制が効かなくなっていたのだろうか。詩織の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった俺は、唇を重ねていた。