傍らに望む(銀時)
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誕生日というのは不思議なもので、普段犬猿の仲である存在ですら、当事者に優しく接する姿を目にすることができたりする。
それは今日、十月十日が誕生日である銀時に対しても有効らしく、今朝から銀時と接している誰も彼もが優しかった。
ちなみに今日一番銀時を驚かせたのは、「今月分の家賃はタダにしてやるよ」というお登勢のセリフだ。調子に乗って「向こう三ヶ月分にしねェ?」と茶々を入れてしまったことで、危うく無かったことにされそうになったものの、それでも最後までお登勢の表情は柔らかかった。
しかし世の中いつだって、例外は必ず存在している。
「なァ、詩織」
今目の前で正座している銀時の彼女、詩織は、ムスッとした表情で銀時を睨んでいる。何かをやらかしたかと必死に考えてみても、思い当たる節の無い銀時は、既にお手上げ状態だった。
「さっきから何だっつーんだよ。いい加減銀さん出かけたいんだけど」
「……」
もうかれこれ10分はこのままだ。こうなると不安も相まって、さすがの銀時も付き合いきれなくなる。
「用があるなら、改めて声かけてくれや」
一つ大きくため息を吐いた銀時はそう言うと、詩織を置いてこの場を離れようとした。
すると突然、着物の裾が引かれる。
「……思いつかないんだもん」
同時にポソリと小さく呟かれた言葉。それはとても辛そうに聞こえ、思わず振り返った。
「何が思いつかないんだ?」
言葉の意味を理解できず、尋ねた銀時の目に飛び込んできたのは、先程までとは正反対の悲しげな瞳。
「ど、どうしたんだよ」
アタフタしてしまう銀時に、詩織は言った。
「今日は銀ちゃんの誕生日だから、張り切って何かをしようと思ってたのに……何も思いつかなかったの。ケーキも、パーティーも。プレゼントですら、準備は出来るけどありきたりな気がして。せっかくの特別な日に、特別なお祝いが出来ないのが悔しくて……情けなくて」
涙を浮かべながら言われ、ようやく合点がいく。要するに詩織は銀時を睨んでいたわけではなく、泣くのを堪えていたというわけだ。
ーー銀さんもまだまだだねェ。
そんなことにも気づけなかったのかと、自分の未熟さに呆れつつ、銀時は詩織を抱きしめた。
「なァ詩織。別に銀さんは特別な祝いなんて必要ねーよ。こうして詩織が俺のことを考えて、祝おうって思ってくれるだけで十分だ」
詩織の憂いを消し去りたくて、優しく言う銀時。だがその言葉は未だ詩織の思いの大きさには及ばず、腕の中で俯いたまま「でも……」と異を唱えさせるだけだった。
それならば、と銀時は続ける。
「まァ、大好きな銀さんを喜ばせたいっつー気持ちは分かるからよォ」
言葉と共に銀時の手が詩織の顎に触れ、顔をゆっくりと上げさせる。潤んだ瞳は悲しげだったが、それと同じくらいに艶めかしい美しさを感じさせた。
「こういう顔は、俺とベッドにいる時だけにしろよ」
「何よそれ。私は真剣に……」
「だったら笑ってくれよ」
「……え?」
一瞬ムッとした詩織の顔が、ポカンとした表情へと変わる。
「笑うって……?」
「今この瞬間から日付が変わるまで、銀さんの傍らで笑顔で過ごしてくんねーかって事。銀さんそれが一番嬉しいわ」
「そんなので……良いの?」
「『そんなの』じゃねェよ。それが今銀さんの一番欲しい物だかんな」
そう言って詩織の鼻の頭をちょんと突く銀時。
思わずくしゃりと顔を歪めた詩織だったが、ニッと口角を上げる銀時の笑顔が偽りのない願いだと確信させ、詩織の頬を緩ませた。
「うん、分かった。笑顔でいるよ」
「そーそー。それで良い。やっぱお前は笑顔が一番似合ってるわ」
歯の浮くようなセリフを吐きながらも、優しい眼差しを向けてくる銀時に、詩織は言う。
「今日はいっぱい笑顔を見せるからね。お誕生日おめでとう、銀ちゃん」
「ん、さんきゅ」
銀時に礼を言われ、ますます笑みを深める詩織。
その笑顔につられた銀時もまた、幸せな笑みを浮かべたのだった。
〜了〜
それは今日、十月十日が誕生日である銀時に対しても有効らしく、今朝から銀時と接している誰も彼もが優しかった。
ちなみに今日一番銀時を驚かせたのは、「今月分の家賃はタダにしてやるよ」というお登勢のセリフだ。調子に乗って「向こう三ヶ月分にしねェ?」と茶々を入れてしまったことで、危うく無かったことにされそうになったものの、それでも最後までお登勢の表情は柔らかかった。
しかし世の中いつだって、例外は必ず存在している。
「なァ、詩織」
今目の前で正座している銀時の彼女、詩織は、ムスッとした表情で銀時を睨んでいる。何かをやらかしたかと必死に考えてみても、思い当たる節の無い銀時は、既にお手上げ状態だった。
「さっきから何だっつーんだよ。いい加減銀さん出かけたいんだけど」
「……」
もうかれこれ10分はこのままだ。こうなると不安も相まって、さすがの銀時も付き合いきれなくなる。
「用があるなら、改めて声かけてくれや」
一つ大きくため息を吐いた銀時はそう言うと、詩織を置いてこの場を離れようとした。
すると突然、着物の裾が引かれる。
「……思いつかないんだもん」
同時にポソリと小さく呟かれた言葉。それはとても辛そうに聞こえ、思わず振り返った。
「何が思いつかないんだ?」
言葉の意味を理解できず、尋ねた銀時の目に飛び込んできたのは、先程までとは正反対の悲しげな瞳。
「ど、どうしたんだよ」
アタフタしてしまう銀時に、詩織は言った。
「今日は銀ちゃんの誕生日だから、張り切って何かをしようと思ってたのに……何も思いつかなかったの。ケーキも、パーティーも。プレゼントですら、準備は出来るけどありきたりな気がして。せっかくの特別な日に、特別なお祝いが出来ないのが悔しくて……情けなくて」
涙を浮かべながら言われ、ようやく合点がいく。要するに詩織は銀時を睨んでいたわけではなく、泣くのを堪えていたというわけだ。
ーー銀さんもまだまだだねェ。
そんなことにも気づけなかったのかと、自分の未熟さに呆れつつ、銀時は詩織を抱きしめた。
「なァ詩織。別に銀さんは特別な祝いなんて必要ねーよ。こうして詩織が俺のことを考えて、祝おうって思ってくれるだけで十分だ」
詩織の憂いを消し去りたくて、優しく言う銀時。だがその言葉は未だ詩織の思いの大きさには及ばず、腕の中で俯いたまま「でも……」と異を唱えさせるだけだった。
それならば、と銀時は続ける。
「まァ、大好きな銀さんを喜ばせたいっつー気持ちは分かるからよォ」
言葉と共に銀時の手が詩織の顎に触れ、顔をゆっくりと上げさせる。潤んだ瞳は悲しげだったが、それと同じくらいに艶めかしい美しさを感じさせた。
「こういう顔は、俺とベッドにいる時だけにしろよ」
「何よそれ。私は真剣に……」
「だったら笑ってくれよ」
「……え?」
一瞬ムッとした詩織の顔が、ポカンとした表情へと変わる。
「笑うって……?」
「今この瞬間から日付が変わるまで、銀さんの傍らで笑顔で過ごしてくんねーかって事。銀さんそれが一番嬉しいわ」
「そんなので……良いの?」
「『そんなの』じゃねェよ。それが今銀さんの一番欲しい物だかんな」
そう言って詩織の鼻の頭をちょんと突く銀時。
思わずくしゃりと顔を歪めた詩織だったが、ニッと口角を上げる銀時の笑顔が偽りのない願いだと確信させ、詩織の頬を緩ませた。
「うん、分かった。笑顔でいるよ」
「そーそー。それで良い。やっぱお前は笑顔が一番似合ってるわ」
歯の浮くようなセリフを吐きながらも、優しい眼差しを向けてくる銀時に、詩織は言う。
「今日はいっぱい笑顔を見せるからね。お誕生日おめでとう、銀ちゃん」
「ん、さんきゅ」
銀時に礼を言われ、ますます笑みを深める詩織。
その笑顔につられた銀時もまた、幸せな笑みを浮かべたのだった。
〜了〜
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