戦場(高杉)
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「不景気な面してんな」
膝を付いた詩織の耳元で聞こえた、ザシュッ、と刀で切り裂く音。そこに重ねて聞こえた声は、高杉のものだ。
限界まで戦い、もう立ち上がる気力も残っていない詩織をあざ笑うかのように、目の前の高杉は、意気揚々と刀を振り続けていた。
「ちょっと休憩してるだけよ。放っておいて!」
悔しさを隠しきれず、詩織が憎まれ口を叩く。だが実際のところ、詩織はもう腕すら上がらない状態だ。
そんな詩織に襲いかかろうとする天人を斬り捨てた高杉は、近くにいた鬼兵隊の者に声をかけ、一気に敵に畳み掛けるよう指示を出す。と同時に詩織に手を伸ばすと、腕を掴んで強引に引っ張り立たせた。
「残念だが、ここは休憩するには無粋な輩が多過ぎらァ。……移動するぞ」
「え……ちょっと、高杉!?」
詩織が思わず叫ぶ。驚いた事に高杉は、詩織を肩に担ぎ上げると、そのまま走り出した。
「無茶しないで! これじゃ敵に……」
「あんな雑魚に俺がやられると思ってんのか? 少し黙ってろ。舌噛むぞ」
余裕の笑みを見せた高杉は、片手で敵を薙ぎ払いながら走り続ける。そして高杉の言葉通り一太刀も浴びること無く、二人は安全地帯まで辿り着くことが出来たのだった。
「ここならゆっくり出来んだろ」
詩織を降ろして軽く肩を回した高杉は、再び戦場へと視線を向ける。人一人担いで走ってきたはずなのに、少し息が上がった程度なのはさすがと言うべきか。
「高杉は……休まなくて大丈夫なの?」
踵を返す高杉の服を、詩織が咄嗟に掴む。
「ずっと戦いっぱなしの上に、私をここまで運んで来たのよ。せめて息を整えてからにしなさいよ」
「俺がいてやらなきゃァ、鬼兵隊の奴らが困るだろうが。テメェはここでおとなしく休んでろ」
「でも、私だって鬼兵隊のーー」
「良いからここにいろ! 総督命令だ」
「……っ!」
強い口調で言われ、ビクリと震える詩織。だが高杉の服は強く掴まれたままだった。それを見た高杉は、小さく口の端を上げながら言う。
「テメェはここまでよく戦った。あとは俺たちに任せておけ」
「……うん」
遠回しに足手まといだと言われた気がして、落ち込んだ詩織が項垂れる。しかしそれは杞憂に過ぎないのだと、続く言葉に教えられた。
「天人共を一掃したら、すぐに迎えに来る。戦いの後のお楽しみには、テメェの体力が必要不可欠だからな。きっちり回復しておけよ」
「それって……っ!」
思わず息を呑んだ詩織の耳を高杉の吐息と言葉が掠め、続いて耳朶が噛まれる。
「次の戦場は、俺の腕の中だ。そこじゃァ休ませてなんざやらねェからな。覚悟しておけ」
そう囁いた高杉は、詩織の返事を待たず、再び戦場へと走り去った。
残された詩織が恐る恐る自らの耳に触れれば、その熱が自らの頬まで赤く染めているであろう事に気付かされる。
「あんな言い方されたら……ここから動けないじゃない」
戦いの疲れだけでなく、与えられた熱で立ち上がれなくなってしまった詩織は、抑えきれない笑みを浮かべながら、恨めしそうに呟いたのだった。
〜了〜
膝を付いた詩織の耳元で聞こえた、ザシュッ、と刀で切り裂く音。そこに重ねて聞こえた声は、高杉のものだ。
限界まで戦い、もう立ち上がる気力も残っていない詩織をあざ笑うかのように、目の前の高杉は、意気揚々と刀を振り続けていた。
「ちょっと休憩してるだけよ。放っておいて!」
悔しさを隠しきれず、詩織が憎まれ口を叩く。だが実際のところ、詩織はもう腕すら上がらない状態だ。
そんな詩織に襲いかかろうとする天人を斬り捨てた高杉は、近くにいた鬼兵隊の者に声をかけ、一気に敵に畳み掛けるよう指示を出す。と同時に詩織に手を伸ばすと、腕を掴んで強引に引っ張り立たせた。
「残念だが、ここは休憩するには無粋な輩が多過ぎらァ。……移動するぞ」
「え……ちょっと、高杉!?」
詩織が思わず叫ぶ。驚いた事に高杉は、詩織を肩に担ぎ上げると、そのまま走り出した。
「無茶しないで! これじゃ敵に……」
「あんな雑魚に俺がやられると思ってんのか? 少し黙ってろ。舌噛むぞ」
余裕の笑みを見せた高杉は、片手で敵を薙ぎ払いながら走り続ける。そして高杉の言葉通り一太刀も浴びること無く、二人は安全地帯まで辿り着くことが出来たのだった。
「ここならゆっくり出来んだろ」
詩織を降ろして軽く肩を回した高杉は、再び戦場へと視線を向ける。人一人担いで走ってきたはずなのに、少し息が上がった程度なのはさすがと言うべきか。
「高杉は……休まなくて大丈夫なの?」
踵を返す高杉の服を、詩織が咄嗟に掴む。
「ずっと戦いっぱなしの上に、私をここまで運んで来たのよ。せめて息を整えてからにしなさいよ」
「俺がいてやらなきゃァ、鬼兵隊の奴らが困るだろうが。テメェはここでおとなしく休んでろ」
「でも、私だって鬼兵隊のーー」
「良いからここにいろ! 総督命令だ」
「……っ!」
強い口調で言われ、ビクリと震える詩織。だが高杉の服は強く掴まれたままだった。それを見た高杉は、小さく口の端を上げながら言う。
「テメェはここまでよく戦った。あとは俺たちに任せておけ」
「……うん」
遠回しに足手まといだと言われた気がして、落ち込んだ詩織が項垂れる。しかしそれは杞憂に過ぎないのだと、続く言葉に教えられた。
「天人共を一掃したら、すぐに迎えに来る。戦いの後のお楽しみには、テメェの体力が必要不可欠だからな。きっちり回復しておけよ」
「それって……っ!」
思わず息を呑んだ詩織の耳を高杉の吐息と言葉が掠め、続いて耳朶が噛まれる。
「次の戦場は、俺の腕の中だ。そこじゃァ休ませてなんざやらねェからな。覚悟しておけ」
そう囁いた高杉は、詩織の返事を待たず、再び戦場へと走り去った。
残された詩織が恐る恐る自らの耳に触れれば、その熱が自らの頬まで赤く染めているであろう事に気付かされる。
「あんな言い方されたら……ここから動けないじゃない」
戦いの疲れだけでなく、与えられた熱で立ち上がれなくなってしまった詩織は、抑えきれない笑みを浮かべながら、恨めしそうに呟いたのだった。
〜了〜
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