もう一度あの無邪気な頃に(銀時)
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大人になると言うのは、至極厄介な事だ。
例えば幼い頃には当たり前だった行為や感情表現が、歳を重ねるごとに許されなくなっていくのだから。
ベッドで無防備に眠る詩織の姿を見ながら、一つため息をつく。
松下村塾にいた頃は当たり前のように隣で眠っていたのに。大人になる事で俺が男であり、お前が女だと言う事実に気付いてしまってからは、ただ触れる事さえ躊躇してしまっていた。
ベッドの傍に座り、顔を覗き込む。深い眠りに就いているお前は、俺の気配になど全く気付いた様子は無い。こうして伸ばした手で、お前の柔らかな唇に触れてもなお、目を覚まそうとはしないから。
「図体ばかりでかくなりやがって。中身はガキのままじゃねェか」
この狭い部屋で俺と二人きりだってのに。少しは警戒するかと思いきや、「眠くなっちゃったから寝るね。おやすみ」と当たり前のように横たわったお前の神経を疑うぜ。
「それとも……お前は俺を男として見てねェのか?」
視線を顔から胸元へと移動すれば、立派な双丘。寝息のリズムに合わせて動くその場所を見るたびに、俺は必死で自分を抑えていると言うのに。
「もしそうならーー」
ゆっくりと詩織に顔を近付ける。昔熱を測る時、額をくっ付けたのと同じように。
そして詩織の吐息を肌で感じた時。
「見てるよ」
不意に聞こえた声に、俺は固まる。
「……起きてたのか……」
「たった今、ね」
そう言って詩織は、ゆっくりと目を開けた。
「銀ちゃんがこんな間近で顔を見せてくれたの、久しぶりだよね」
「そう、か?」
動揺を必死に隠しながら、俺は答える。
「まァ顔を近付ける理由がねェからな」
「じゃぁ、何で今はこんなに近いの?」
「それは……」
何と答えれば良いのか分からず口ごもれば、代わりに詩織がその答えを紡いだ。
「大人になっても銀ちゃんは銀ちゃん。私は私だよ。あとねーー」
ゆっくりと持ち上げられた詩織の手が、優しく俺の頬を撫でる。
「銀ちゃんを好きな気持ちも、あの頃と変わってないから」
そう言ってはにかむように微笑んだ詩織は、大人の女の顔をしていた。
だからーー。
「ガキのままなら良かったんだけどなァ」
俺の頬に触れている詩織の手に、俺の手を重ねる。その流れで、唇も重ねた。柔らかな熱が伝えてくる詩織の想いを、一欠片も零さぬようにと。
「大人になって、知り過ぎちまった」
その言葉も、行為も、全ての意味を。
ーーもう一度あの無邪気な頃に戻れたらーー
いや、考えても無駄だろう。
「詩織」
潤んだ瞳で見上げてくる詩織を見て、覚悟を決めた。
「俺は、お前をーー」
〜了〜
例えば幼い頃には当たり前だった行為や感情表現が、歳を重ねるごとに許されなくなっていくのだから。
ベッドで無防備に眠る詩織の姿を見ながら、一つため息をつく。
松下村塾にいた頃は当たり前のように隣で眠っていたのに。大人になる事で俺が男であり、お前が女だと言う事実に気付いてしまってからは、ただ触れる事さえ躊躇してしまっていた。
ベッドの傍に座り、顔を覗き込む。深い眠りに就いているお前は、俺の気配になど全く気付いた様子は無い。こうして伸ばした手で、お前の柔らかな唇に触れてもなお、目を覚まそうとはしないから。
「図体ばかりでかくなりやがって。中身はガキのままじゃねェか」
この狭い部屋で俺と二人きりだってのに。少しは警戒するかと思いきや、「眠くなっちゃったから寝るね。おやすみ」と当たり前のように横たわったお前の神経を疑うぜ。
「それとも……お前は俺を男として見てねェのか?」
視線を顔から胸元へと移動すれば、立派な双丘。寝息のリズムに合わせて動くその場所を見るたびに、俺は必死で自分を抑えていると言うのに。
「もしそうならーー」
ゆっくりと詩織に顔を近付ける。昔熱を測る時、額をくっ付けたのと同じように。
そして詩織の吐息を肌で感じた時。
「見てるよ」
不意に聞こえた声に、俺は固まる。
「……起きてたのか……」
「たった今、ね」
そう言って詩織は、ゆっくりと目を開けた。
「銀ちゃんがこんな間近で顔を見せてくれたの、久しぶりだよね」
「そう、か?」
動揺を必死に隠しながら、俺は答える。
「まァ顔を近付ける理由がねェからな」
「じゃぁ、何で今はこんなに近いの?」
「それは……」
何と答えれば良いのか分からず口ごもれば、代わりに詩織がその答えを紡いだ。
「大人になっても銀ちゃんは銀ちゃん。私は私だよ。あとねーー」
ゆっくりと持ち上げられた詩織の手が、優しく俺の頬を撫でる。
「銀ちゃんを好きな気持ちも、あの頃と変わってないから」
そう言ってはにかむように微笑んだ詩織は、大人の女の顔をしていた。
だからーー。
「ガキのままなら良かったんだけどなァ」
俺の頬に触れている詩織の手に、俺の手を重ねる。その流れで、唇も重ねた。柔らかな熱が伝えてくる詩織の想いを、一欠片も零さぬようにと。
「大人になって、知り過ぎちまった」
その言葉も、行為も、全ての意味を。
ーーもう一度あの無邪気な頃に戻れたらーー
いや、考えても無駄だろう。
「詩織」
潤んだ瞳で見上げてくる詩織を見て、覚悟を決めた。
「俺は、お前をーー」
〜了〜
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