未だ誰も知らない君を(銀時)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よォ、詩織。無事……」
残存する敵はいないかと確認するように辺りを見回し、最後に私を見た白夜叉の動きが止まる。目を見開き、これ以上ない驚きを現した白夜叉は、私が今まで見た事のない表情をしていた。
「白夜叉?」
不思議に思って白夜叉に近付こうとした私に、白夜叉が言う。
「そんなにも……傷を負ってたんだな」
「え?」
白夜叉の言葉にハッとして、自らの体を見る。未だ全裸であった事を思い出し、慌ててしゃがみ込んだ私は、何故か裸を見られた事よりも、全身の傷を見られた事の方にショックを受けていた。
「お、お互い様だろう。戦場にいる限り、傷を受けずに生き延びるなんざ無理な話だ」
「そりゃそうだけどよォ。……やっぱ女にそんな傷を負わせたくはねェな」
ピクリ、と無意識に体が跳ねる。白夜叉の口から出た『女』という言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
「女だなんて……思ってもいない癖に」
服を抱きしめながらポツリと言った憎まれ口は、自分でも驚くほどに震えている。そんな私の様子に何を思ったか、白夜叉は私に歩み寄ると背中から抱きしめた。
「体が冷えきっちまったな。ほら、ここも……」
「……っ!」
うなじに触れた熱が白夜叉の唇だと気付くのに、時間はかからない。
「白夜叉、何を……っ!」
「何って、あっためてやろうとしてんだよ。冷えた時は人肌で温めるのが一番だろ。……しっかし思ってた以上に華奢な体してんなァ。あ、でも付くトコはしっかり付いてんのね」
「ちょっ、どこ触ってんだ白夜叉!」
「ん~、なかなかの触り心地」
「おい、シレッと胸を揉んでんじゃ……ぁっ! い、いい加減にしないと……」
半ばパニック状態で暴れる私を物ともせず、好き勝手触りまくる白夜叉。だがやがてからかうのにも飽きたのか、その手を止めた。
「思ってるに決まってんだろ」
「……は?」
体のあちこちをくすぐるように触られて息が上がり、冷静な判断力に欠いた私には、この脈絡のない言葉の意味が分からない。
「何を思ってるって?」
背中越しに振り返りながら聞くと、切ない表情の白夜叉が私を見ていた。
「詩織が女だって事だよ。っつーかそれ以外の何だってんだ」
そう言った白夜叉は、私の反応を待たずに体を回転させて向かい合わせにする。視線を上から下まで移動させ、最後に私の目を見た白夜叉は、優しい微笑みを見せた。
「髪を下ろしてんのって、初めてじゃねェ?」
「え? ああ、戦場ではいつもひっつめてるからな」
「んじゃ、この姿を知ってんのは俺だけか」
「まあ、そうなるな」
「そっか」
白夜叉の笑みが深くなる。訳の分からないこの展開に戸惑う私に、白夜叉は言った。
「こんなにもキレイな詩織の姿を知ってんのは、俺だけって事か」
「キレイって……私っ!? 嘘っ!」
驚きで叫んだ私に、白夜叉は更に続けた。
「お前はキレイだよ。その長いサラサラの髪も、傷だらけの体も、全部キレイだ」
「そんな、私は……」
呆気にとられて言葉を失った私は、白夜叉を見つめる事しか出来ない。すると白夜叉は、優しく私の頬に手を当てた。
「詩織自身も気付いてなかったのかよ。……まァ良いさ。誰も知らない詩織を俺だけが知ってるって、なんかすげェ優越感だな」
「白夜叉……」
「銀時」
「え……?」
「これから俺の事は銀時って呼ぶこと」
「何だよそれ。勝手に話を進めんな」
「あと、その男言葉も銀さんと二人っきりの時は封印な。さっきの独り言が素なんだろ? あっちの方が可愛くて、詩織に似合ってんぞ」
「かわ……っ! 言わせておけばさっきから恥ずかしいセリフをポンポンと! 一体何なんだお前は!」
「へ? 気付いてねーの?」
「何をだよっ!」
流れるような会話の中、真意を見つけられなかった私は、恥ずかしさも相まって白夜叉を怒鳴りつける。だが白夜叉は平然と言い放った。
「そんなの詩織が好きだからに決まってんだろ」
「しろや……」
「銀時。お前を好きな……そんでもってお前が好きになる男の名だよ」
訂正された名は、唇越しに私の心に流れ込む。
トクリと跳ねた心臓がその名に触れ、帯びた熱がやがて私の頬までも赤く染めた頃。
「こんなにも男心をくすぐる詩織の顔も、未だ誰も知らねェんだろうな」
と言った『銀時』の顔は、とても幸せそうだった。
~了~
残存する敵はいないかと確認するように辺りを見回し、最後に私を見た白夜叉の動きが止まる。目を見開き、これ以上ない驚きを現した白夜叉は、私が今まで見た事のない表情をしていた。
「白夜叉?」
不思議に思って白夜叉に近付こうとした私に、白夜叉が言う。
「そんなにも……傷を負ってたんだな」
「え?」
白夜叉の言葉にハッとして、自らの体を見る。未だ全裸であった事を思い出し、慌ててしゃがみ込んだ私は、何故か裸を見られた事よりも、全身の傷を見られた事の方にショックを受けていた。
「お、お互い様だろう。戦場にいる限り、傷を受けずに生き延びるなんざ無理な話だ」
「そりゃそうだけどよォ。……やっぱ女にそんな傷を負わせたくはねェな」
ピクリ、と無意識に体が跳ねる。白夜叉の口から出た『女』という言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
「女だなんて……思ってもいない癖に」
服を抱きしめながらポツリと言った憎まれ口は、自分でも驚くほどに震えている。そんな私の様子に何を思ったか、白夜叉は私に歩み寄ると背中から抱きしめた。
「体が冷えきっちまったな。ほら、ここも……」
「……っ!」
うなじに触れた熱が白夜叉の唇だと気付くのに、時間はかからない。
「白夜叉、何を……っ!」
「何って、あっためてやろうとしてんだよ。冷えた時は人肌で温めるのが一番だろ。……しっかし思ってた以上に華奢な体してんなァ。あ、でも付くトコはしっかり付いてんのね」
「ちょっ、どこ触ってんだ白夜叉!」
「ん~、なかなかの触り心地」
「おい、シレッと胸を揉んでんじゃ……ぁっ! い、いい加減にしないと……」
半ばパニック状態で暴れる私を物ともせず、好き勝手触りまくる白夜叉。だがやがてからかうのにも飽きたのか、その手を止めた。
「思ってるに決まってんだろ」
「……は?」
体のあちこちをくすぐるように触られて息が上がり、冷静な判断力に欠いた私には、この脈絡のない言葉の意味が分からない。
「何を思ってるって?」
背中越しに振り返りながら聞くと、切ない表情の白夜叉が私を見ていた。
「詩織が女だって事だよ。っつーかそれ以外の何だってんだ」
そう言った白夜叉は、私の反応を待たずに体を回転させて向かい合わせにする。視線を上から下まで移動させ、最後に私の目を見た白夜叉は、優しい微笑みを見せた。
「髪を下ろしてんのって、初めてじゃねェ?」
「え? ああ、戦場ではいつもひっつめてるからな」
「んじゃ、この姿を知ってんのは俺だけか」
「まあ、そうなるな」
「そっか」
白夜叉の笑みが深くなる。訳の分からないこの展開に戸惑う私に、白夜叉は言った。
「こんなにもキレイな詩織の姿を知ってんのは、俺だけって事か」
「キレイって……私っ!? 嘘っ!」
驚きで叫んだ私に、白夜叉は更に続けた。
「お前はキレイだよ。その長いサラサラの髪も、傷だらけの体も、全部キレイだ」
「そんな、私は……」
呆気にとられて言葉を失った私は、白夜叉を見つめる事しか出来ない。すると白夜叉は、優しく私の頬に手を当てた。
「詩織自身も気付いてなかったのかよ。……まァ良いさ。誰も知らない詩織を俺だけが知ってるって、なんかすげェ優越感だな」
「白夜叉……」
「銀時」
「え……?」
「これから俺の事は銀時って呼ぶこと」
「何だよそれ。勝手に話を進めんな」
「あと、その男言葉も銀さんと二人っきりの時は封印な。さっきの独り言が素なんだろ? あっちの方が可愛くて、詩織に似合ってんぞ」
「かわ……っ! 言わせておけばさっきから恥ずかしいセリフをポンポンと! 一体何なんだお前は!」
「へ? 気付いてねーの?」
「何をだよっ!」
流れるような会話の中、真意を見つけられなかった私は、恥ずかしさも相まって白夜叉を怒鳴りつける。だが白夜叉は平然と言い放った。
「そんなの詩織が好きだからに決まってんだろ」
「しろや……」
「銀時。お前を好きな……そんでもってお前が好きになる男の名だよ」
訂正された名は、唇越しに私の心に流れ込む。
トクリと跳ねた心臓がその名に触れ、帯びた熱がやがて私の頬までも赤く染めた頃。
「こんなにも男心をくすぐる詩織の顔も、未だ誰も知らねェんだろうな」
と言った『銀時』の顔は、とても幸せそうだった。
~了~
2/2ページ