始まりの日(土方)
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5月5日は、土方十四郎の誕生日である。
その日の朝、何故か近藤から
「せっかくの誕生日だし、今日は1日ゆっくり過ごすと良い。かぶき町のカフェなんかに行くと良いと思うぞ。うん、絶対あの店には行くべきだ!」
と強引に『非番』のプレゼントを渡された土方は現在、戸惑いながらもかぶき町を歩いている。
誕生日プレゼントとして休みをもらった以上、屯所でグダグダしているわけにはいかないし、ああも具体的に行き先を言われれば、何かがそこにある事は分かっていた。
「近藤さんの事だから、サプライズのケーキでも注文してんじゃねェか?」
まさかお妙のお手製ダークマターケーキとかじゃないだろうなと微妙に怯えながらも、土方はとりあえずカフェへと向かう。そして店の前で一つ深呼吸をすると、ゆっくりと店に入った。
「いらっしゃいま……って、十四郎くん!」
「お前……何でこんなトコに」
土方を出迎えた店員は近藤の従姉妹であり、土方の顔なじみである詩織だった。
「いつこっちに来たんだ?」
案内された席に座った土方は、メニューを眺めながら言う。
「学校がお休みに入ってすぐ。連休中だけ観光がてらのアルバイトをしようと思ってね」
「この店は若者に人気で、バイトもなかなか入れないと聞いたことがあったんだが、よく通ったな」
「こちらに来た初日に勲くんに連絡して、バイトをしたいと言ったら紹介してくれたの。確か『おたえさんのお陰』でどうとかこうとか言ってたな。勲くんの彼女か何か?」
「……まあ、複雑な関係ではあるな」
苦笑いで言葉を濁した土方は、「こういう小洒落た店のメニューはよく分かんねェな」と言ってメニューを閉じ、「テキトーにお前が見繕ってくれ」と言って詩織にメニューを渡した。
「もう、相変わらずだなぁ」
そう言ってため息をついた詩織はメニューを受け取ると、踵を返して厨房へと向かう。その後ろ姿を見送った土方は、未だ確認できていなかった仕事のメールをのんびりと確認しながら時間を潰した。
数分後。
「お待たせしました」
「……これは……?」
運ばれてきた品を見て呆気にとられる土方に、詩織はしてやったりの顔を見せる。それは小さなバースデーケーキで、乗せられた小さなプレートには可愛く『おめでとう』の文字と兜の絵が描かれていた。
「今日は十四郎くんのお誕生日でしょ? だから特別メニューをご用意しました〜! なかなかの出来でしょ?」
「これ……お前が作ったのか?」
「そうだよ。ちなみに生クリームにはちゃんとマヨネーズを混ぜ込んである、十四郎くんにしか食べられない特製だからね。ありがたく頂戴しなさいよ」
ニシシと笑いながら言う詩織に、土方はフッと笑みを浮かべる。
「俺にしか食べられないって言葉には少々引っかかるもんもあるが、確かにこれはありがてェな」
「ほんと? じゃあ食べてくれる?」
「その為に詩織が作ったんだろうが。それにお前の作ったもんにハズレはねェしな」
「十四郎くん……!」
素直な褒め言葉に、満面の笑みで喜びを表す詩織を見て、土方は言った。
「上がりは何時だ?」
「上がり?」
「バイトが終わるのは何時かって聞いてんだよ」
「今日は1時半。お昼までなんだ」
「そうか。だったらその頃に店の前にいる」
「……はい?」
土方の唐突な言葉を理解できず、詩織は首をかしげる。その反応に少し苛立ちを見せながらも、土方は続けた。
「バイトが終われば暇なんだろうが。今日は俺も非番だし、適当にその辺を案内してやるよ」
「え? 良いの?」
土方の提案が、詩織の頬を紅潮させる。心の底からの喜びを見せられた土方からは、苛立ちが消えた。
「色々行きたいトコがあるんだけど、付き合ってくれる?」
「行けるトコならな」
「夜まで時間潰れちゃうよ?」
「構わねェよ。ケーキの礼だ」
「やったぁ!」
無邪気に喜ぶ詩織に小さく笑いながら、土方はケーキを口にする。
「……美味いな」
そう呟いた土方は、あっという間にケーキを平らげた。
口直しのコーヒーを飲み終え、店を出ようとした時。
「本当はね」
土方の背中越しに、詩織が小さく言った。
「このお店に十四郎くんが来てくれるよう、勲くんに頼んでおいたんだ」
その言葉に土方が振り向くと、顔色を伺うように不安な表情でこちらを見ている詩織がいる。
そんな詩織に土方は、わざとらしく大きなため息を吐いた。
「んな事、最初から分かってたさ」
「嘘……」
目を丸くして驚く詩織の頭に手を置き、ポンポンと叩きながら土方は言う。
「近藤さんがこんな店に俺を誘導する事からしておかしいしな。それに、特製ケーキをあの短時間で出したんだ。最初から準備されてたと考えて当然だろうが」
「そっか……確かにそうだよね……」
恥ずかしそうに俯いた詩織は、おずおずと手を伸ばして土方の服を掴んだ。
「……呆れちゃった?」
「どうだろうな」
「さっきの約束、無しになっちゃう?」
「無しにしたいのか?」
「……っ」
咄嗟にブンブンと頭を横に振る詩織。その必死さに、思わず土方は吹き出してしまった。
「分かった分かった。ちゃんと迎えに来てやるから」
「ホントに?」
勢いよく顔を上げた詩織の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。それを見た土方は優しい頬笑みを見せると、コクリと頷いてみせた。
「1時半に店の前に来るから、お前も時間を守れよな」
「うん……!」
「そんじゃ、さっさと仕事に戻れ」
「うん! 十四郎くんとの初デートのために、頑張って早く仕事を終わらせるからね!」
「デー……!?」
デートの言葉に思わず顔を赤らめた土方の目の前で、ドアが閉まる。店の奥へと駆けていく詩織の後ろ姿をガラス越しに見ながら、土方はぼやいた。
「意識させてんじゃねェよ。せっかくこっちは大人の余裕を見せてやろうと思ってたってのに」
後頭部を掻きながらはぁっと大きく息を吐いた土方は、懐からタバコを取り出して火を点ける。
「その内俺から動ければと思っていたが、先手を取られちまったなァ……。仕方ねェ。時間までにデー……観光計画を立てておいてやるか。詩織の喜びそうなトコは多分……」
ブツブツと言いながら歩く土方の表情は柔らかく、幸せそうだった。
約束の時間までの2時間弱。
書店や山崎を使って情報収集に当たった土方が、どのようにして詩織を満足させ、自らの誕生日を堪能する事となったかは、また別の話ーー。
〜了〜
その日の朝、何故か近藤から
「せっかくの誕生日だし、今日は1日ゆっくり過ごすと良い。かぶき町のカフェなんかに行くと良いと思うぞ。うん、絶対あの店には行くべきだ!」
と強引に『非番』のプレゼントを渡された土方は現在、戸惑いながらもかぶき町を歩いている。
誕生日プレゼントとして休みをもらった以上、屯所でグダグダしているわけにはいかないし、ああも具体的に行き先を言われれば、何かがそこにある事は分かっていた。
「近藤さんの事だから、サプライズのケーキでも注文してんじゃねェか?」
まさかお妙のお手製ダークマターケーキとかじゃないだろうなと微妙に怯えながらも、土方はとりあえずカフェへと向かう。そして店の前で一つ深呼吸をすると、ゆっくりと店に入った。
「いらっしゃいま……って、十四郎くん!」
「お前……何でこんなトコに」
土方を出迎えた店員は近藤の従姉妹であり、土方の顔なじみである詩織だった。
「いつこっちに来たんだ?」
案内された席に座った土方は、メニューを眺めながら言う。
「学校がお休みに入ってすぐ。連休中だけ観光がてらのアルバイトをしようと思ってね」
「この店は若者に人気で、バイトもなかなか入れないと聞いたことがあったんだが、よく通ったな」
「こちらに来た初日に勲くんに連絡して、バイトをしたいと言ったら紹介してくれたの。確か『おたえさんのお陰』でどうとかこうとか言ってたな。勲くんの彼女か何か?」
「……まあ、複雑な関係ではあるな」
苦笑いで言葉を濁した土方は、「こういう小洒落た店のメニューはよく分かんねェな」と言ってメニューを閉じ、「テキトーにお前が見繕ってくれ」と言って詩織にメニューを渡した。
「もう、相変わらずだなぁ」
そう言ってため息をついた詩織はメニューを受け取ると、踵を返して厨房へと向かう。その後ろ姿を見送った土方は、未だ確認できていなかった仕事のメールをのんびりと確認しながら時間を潰した。
数分後。
「お待たせしました」
「……これは……?」
運ばれてきた品を見て呆気にとられる土方に、詩織はしてやったりの顔を見せる。それは小さなバースデーケーキで、乗せられた小さなプレートには可愛く『おめでとう』の文字と兜の絵が描かれていた。
「今日は十四郎くんのお誕生日でしょ? だから特別メニューをご用意しました〜! なかなかの出来でしょ?」
「これ……お前が作ったのか?」
「そうだよ。ちなみに生クリームにはちゃんとマヨネーズを混ぜ込んである、十四郎くんにしか食べられない特製だからね。ありがたく頂戴しなさいよ」
ニシシと笑いながら言う詩織に、土方はフッと笑みを浮かべる。
「俺にしか食べられないって言葉には少々引っかかるもんもあるが、確かにこれはありがてェな」
「ほんと? じゃあ食べてくれる?」
「その為に詩織が作ったんだろうが。それにお前の作ったもんにハズレはねェしな」
「十四郎くん……!」
素直な褒め言葉に、満面の笑みで喜びを表す詩織を見て、土方は言った。
「上がりは何時だ?」
「上がり?」
「バイトが終わるのは何時かって聞いてんだよ」
「今日は1時半。お昼までなんだ」
「そうか。だったらその頃に店の前にいる」
「……はい?」
土方の唐突な言葉を理解できず、詩織は首をかしげる。その反応に少し苛立ちを見せながらも、土方は続けた。
「バイトが終われば暇なんだろうが。今日は俺も非番だし、適当にその辺を案内してやるよ」
「え? 良いの?」
土方の提案が、詩織の頬を紅潮させる。心の底からの喜びを見せられた土方からは、苛立ちが消えた。
「色々行きたいトコがあるんだけど、付き合ってくれる?」
「行けるトコならな」
「夜まで時間潰れちゃうよ?」
「構わねェよ。ケーキの礼だ」
「やったぁ!」
無邪気に喜ぶ詩織に小さく笑いながら、土方はケーキを口にする。
「……美味いな」
そう呟いた土方は、あっという間にケーキを平らげた。
口直しのコーヒーを飲み終え、店を出ようとした時。
「本当はね」
土方の背中越しに、詩織が小さく言った。
「このお店に十四郎くんが来てくれるよう、勲くんに頼んでおいたんだ」
その言葉に土方が振り向くと、顔色を伺うように不安な表情でこちらを見ている詩織がいる。
そんな詩織に土方は、わざとらしく大きなため息を吐いた。
「んな事、最初から分かってたさ」
「嘘……」
目を丸くして驚く詩織の頭に手を置き、ポンポンと叩きながら土方は言う。
「近藤さんがこんな店に俺を誘導する事からしておかしいしな。それに、特製ケーキをあの短時間で出したんだ。最初から準備されてたと考えて当然だろうが」
「そっか……確かにそうだよね……」
恥ずかしそうに俯いた詩織は、おずおずと手を伸ばして土方の服を掴んだ。
「……呆れちゃった?」
「どうだろうな」
「さっきの約束、無しになっちゃう?」
「無しにしたいのか?」
「……っ」
咄嗟にブンブンと頭を横に振る詩織。その必死さに、思わず土方は吹き出してしまった。
「分かった分かった。ちゃんと迎えに来てやるから」
「ホントに?」
勢いよく顔を上げた詩織の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。それを見た土方は優しい頬笑みを見せると、コクリと頷いてみせた。
「1時半に店の前に来るから、お前も時間を守れよな」
「うん……!」
「そんじゃ、さっさと仕事に戻れ」
「うん! 十四郎くんとの初デートのために、頑張って早く仕事を終わらせるからね!」
「デー……!?」
デートの言葉に思わず顔を赤らめた土方の目の前で、ドアが閉まる。店の奥へと駆けていく詩織の後ろ姿をガラス越しに見ながら、土方はぼやいた。
「意識させてんじゃねェよ。せっかくこっちは大人の余裕を見せてやろうと思ってたってのに」
後頭部を掻きながらはぁっと大きく息を吐いた土方は、懐からタバコを取り出して火を点ける。
「その内俺から動ければと思っていたが、先手を取られちまったなァ……。仕方ねェ。時間までにデー……観光計画を立てておいてやるか。詩織の喜びそうなトコは多分……」
ブツブツと言いながら歩く土方の表情は柔らかく、幸せそうだった。
約束の時間までの2時間弱。
書店や山崎を使って情報収集に当たった土方が、どのようにして詩織を満足させ、自らの誕生日を堪能する事となったかは、また別の話ーー。
〜了〜
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