早く大人になりたくて(銀八)
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心を通わせることが出来たと思っていたのは、私だけだったのだろうか。
ガラス越しのキスをして以降、先生からのアクションは何も無く。ついさっきも廊下ですれ違ったにも関わらず、その態度はあくまで生徒の一人としての扱いだった。
「所詮教師と生徒だもんね。……揶揄われただけなのかなぁ」
そんな愚痴をこぼしながら、一人訪れた音楽室。頼まれた資料を見つけて部屋を出ようとすると、いつの間にかドアの所に坂田先生が立っていた。
「先生……」
少しだけ息を切らしながら、後ろ手にドアを閉める先生。
「なァ詩織、こないだのアレは、その、何だ……」
焦るように言う先生の姿を見て、私は全てを察した。
「やだ、何を気にしてるんですか? ひょっとして先生ってば、私が本気だと思ってた?」
未だ言葉を紡ぎ切れていない先生に向けて、咄嗟に冷たく言い放つ。
「え? だってお前……」
「も~、先生みたいな天パのおじさんが、こ~んなピッチピチの可愛い女子高生に、本気で相手をしてもらえるなんて思っちゃダメですよ~」
わざとらしい程の笑顔を見せながら、必死に先生をディスってる今の私は、上手に冷めたフリが出来てる?
「詩織……」
さすがに私の言葉が刺さったのか、傷付いた顔を見せる坂田先生。その顔を見て私の胸もズキリと痛んだけれど、表に出すわけにはいかなかった。
「ま、そういうわけだから、お互いあの日の事は忘れましょ」
そう言った私は急いでこの場を離れようと、先生を押し退けてドアに手を伸ばす。でも先生はそれを許してはくれなくて。
「待てよ、詩織」
腕を掴まれたと思った時にはもう、私の体は先生に抱きしめられていた。
「は、離して……っ!」
「イヤだね。涙が止まるまでは……離さねェよ」
「……え?」
先生の言葉に驚いた私は、自らの頬に触れて気付く。
「私……泣いてたの? いつから……」
次から次へと溢れ出てくる涙に呆然としていると、先生が言った。
「廊下で俺とすれ違う時、目が潤んでる事に気付いたんだよ。……だからきちんと話しておくべきだと思って追って来た」
「話すって、何を……」
驚きの連続で、頭が回らない。止まらぬ涙をそのままに顔を見上げると、先生は優しい眼差しで私を見つつ、頬を包み込むように触れた指で涙を拭いながら語りだした。
「今の俺は教師であり、お前は生徒。これはどうやったって覆せねェ。だから卒業まではこのまま……ただの教師と生徒のままでいるつもりだ。お互いが納得して、無事お前が卒業の日を迎えたら――」
涙を拭っていた指が、今度はツイ、と私の唇を撫でる。一瞬ぐっと何かを抑える素振りを見せた坂田先生は、一つ大きく息を吐くと、切ない笑顔を見せて言った。
「もう一度……今度は本当のキスをしてやるよ」
そして私を腕から解放し、流れるような動きでドアを開けて私を部屋から押し出す。
「せんせ……」
「そんじゃ、その日をお楽しみに~」
先ほどまでの表情とは打って変わって、いつも通りのとぼけた顔を見せる先生に私は戸惑った。
でも再びドアが閉められる直前に、隙間から見えた先生の顔が赤くなっていた事に気付いてしまったから。先生の腕の温もりと、唇に触れた指の感触を今になって思い出し、鼓動が早まる。
ドキドキする胸を押さえながら、私は言った。
「私は本気だから……待ってます」
すると私の言葉に呼応するように『コン』と音楽室のドアが鳴る。
その音を聞いた瞬間、全身を覆った喜びが、私に笑みを浮かばせた。
~了~
ガラス越しのキスをして以降、先生からのアクションは何も無く。ついさっきも廊下ですれ違ったにも関わらず、その態度はあくまで生徒の一人としての扱いだった。
「所詮教師と生徒だもんね。……揶揄われただけなのかなぁ」
そんな愚痴をこぼしながら、一人訪れた音楽室。頼まれた資料を見つけて部屋を出ようとすると、いつの間にかドアの所に坂田先生が立っていた。
「先生……」
少しだけ息を切らしながら、後ろ手にドアを閉める先生。
「なァ詩織、こないだのアレは、その、何だ……」
焦るように言う先生の姿を見て、私は全てを察した。
「やだ、何を気にしてるんですか? ひょっとして先生ってば、私が本気だと思ってた?」
未だ言葉を紡ぎ切れていない先生に向けて、咄嗟に冷たく言い放つ。
「え? だってお前……」
「も~、先生みたいな天パのおじさんが、こ~んなピッチピチの可愛い女子高生に、本気で相手をしてもらえるなんて思っちゃダメですよ~」
わざとらしい程の笑顔を見せながら、必死に先生をディスってる今の私は、上手に冷めたフリが出来てる?
「詩織……」
さすがに私の言葉が刺さったのか、傷付いた顔を見せる坂田先生。その顔を見て私の胸もズキリと痛んだけれど、表に出すわけにはいかなかった。
「ま、そういうわけだから、お互いあの日の事は忘れましょ」
そう言った私は急いでこの場を離れようと、先生を押し退けてドアに手を伸ばす。でも先生はそれを許してはくれなくて。
「待てよ、詩織」
腕を掴まれたと思った時にはもう、私の体は先生に抱きしめられていた。
「は、離して……っ!」
「イヤだね。涙が止まるまでは……離さねェよ」
「……え?」
先生の言葉に驚いた私は、自らの頬に触れて気付く。
「私……泣いてたの? いつから……」
次から次へと溢れ出てくる涙に呆然としていると、先生が言った。
「廊下で俺とすれ違う時、目が潤んでる事に気付いたんだよ。……だからきちんと話しておくべきだと思って追って来た」
「話すって、何を……」
驚きの連続で、頭が回らない。止まらぬ涙をそのままに顔を見上げると、先生は優しい眼差しで私を見つつ、頬を包み込むように触れた指で涙を拭いながら語りだした。
「今の俺は教師であり、お前は生徒。これはどうやったって覆せねェ。だから卒業まではこのまま……ただの教師と生徒のままでいるつもりだ。お互いが納得して、無事お前が卒業の日を迎えたら――」
涙を拭っていた指が、今度はツイ、と私の唇を撫でる。一瞬ぐっと何かを抑える素振りを見せた坂田先生は、一つ大きく息を吐くと、切ない笑顔を見せて言った。
「もう一度……今度は本当のキスをしてやるよ」
そして私を腕から解放し、流れるような動きでドアを開けて私を部屋から押し出す。
「せんせ……」
「そんじゃ、その日をお楽しみに~」
先ほどまでの表情とは打って変わって、いつも通りのとぼけた顔を見せる先生に私は戸惑った。
でも再びドアが閉められる直前に、隙間から見えた先生の顔が赤くなっていた事に気付いてしまったから。先生の腕の温もりと、唇に触れた指の感触を今になって思い出し、鼓動が早まる。
ドキドキする胸を押さえながら、私は言った。
「私は本気だから……待ってます」
すると私の言葉に呼応するように『コン』と音楽室のドアが鳴る。
その音を聞いた瞬間、全身を覆った喜びが、私に笑みを浮かばせた。
~了~
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